冬の狩人





題名:冬の狩人
作者:大沢在昌
発行:幻冬舎 2020.11.20 初版
価格:¥1,800



 昨年は、『新宿鮫』シリーズが8年ぶりに再登場して懐かしかった。続いての今回は、なんとあの『狩人』シリーズが6年ぶりに再登場。作者の年齢を調べたら、おお、ぼくと同級生なのか! 和製ハードボイルドの雄として名を馳せた大沢在昌も、今ではすっかりベテランの域なのだろう。一線を退いたのかと思いきや、そこそこ重厚な人気キャラのシリーズ作品で、その誠実な書きっぷりを想い出させてくれる近年ということか。

 作者が年齢でいつの間にか追い抜いてしまったであろう新宿の刑事たち(鮫島と佐江)という二つのシリーズ主人公たちも、現在は円熟の極みを匂わせつつ、新宿で知らない者とてない凄腕刑事っぷりを改めて発揮してくれている。そもそも後発である佐江の方は、最初からベテラン風を吹かせた強面デカであったのだが。

 『狩人』シリーズは作品毎に異なる相棒と佐江が組むことになるという構成である。今回のW主人公の相棒は、少々頼りない、地方都市の若手刑事・川村である。さして個性も出来上がっていない川村なのだが、今回、地方都市であるH県本郷市に展開する豪族企業をめぐる三年前の未解決殺戮事件の重要参考人の帰還を契機に、一匹狼・佐江と組まされることで、とんでもない経験を積まされることになる。一方佐江は停職中なのだが、この事件で急遽引っ張り出され嬉々として事件に臨む。

 佐江と川村の視点は交互に展開されるので、超ベテラン・デカと新人刑事の落差を楽しんで頂きたい。また、重要参考人である謎の女性の行動と、最初の接触までの危険いっぱいのプロセスで、緊張感やスピーディなアクションを醸し出す語り出しは、大沢ならではの技法だろう。本書は新聞小説として連載登場したものだからか、余計にテンポよく進んでゆく様子、謎に謎を重ねてゆく構造が、独特のリーダビリティを産み出しているように思う。 

 新宿の暴力組織が絡むとは言え、本書の舞台はほとんど地方都市H市に展開される。山上に怪しく構える冬湖楼という企業施設については、カバー画像がその雰囲気を伝えているが、全体的にタイトルの『冬の狩人』にイメージが届いていないところが、タイトルとしては無理矢理感があってとても残念だ。『北の狩人』でマタギの末裔である若い刑事が醸し出した雰囲気も、冬という季節らしさも、本作では残念ながら最後まで感じられない。

 しかし、『黒の狩人』以降、感じさせている国際犯罪ミステリーとしてのスケール感は踏襲されているし、ある意味前二作との繋がりを持った物語としても読めるので、シリーズ読者としては嬉しい限り。また、新宿のバーで、一瞬だけ鮫シリーズとの交錯を匂わせるシーンがある。大沢作品としては少し珍しいサービス・テイクであろう。

 いずれにせよ地方都市を舞台にした狩人シリーズ作品は珍しい。東京から高速を使って二時間程度で到達できる小さな企業城下町という設定下、大都会でドブネズミのようなサバイバル能力を発揮する佐江がどのような活躍を見せるのか? そして、今回も気になる個性的キャラクターたちとの佐江の絡みについても楽しみは満載。多様なピースが散在する仕掛けだらけの大沢ジグソーに、今回も是非腰を据えてじっくり挑んで頂きたいように思う。

(2021.02.08)
最終更新:2021年02月08日 16:56