傷痕



題名:傷痕 上/下
原題:Shadow Man (2006)
作者:コーディ・マクファディン Cody Mcfadyen
訳者:長島水際
発行:ヴィレッジ・ブックス 2006.11.20 初刷
価格:上\680/下\720

 これまでのサイコ・サスペンスを凌駕しようという作者の意気込みが、かなり直裁に感じられるサービス満載のスリラーである。少し前に読んだ『ダーティ・サリー』も『ブラック・ダリア』の映画化などで再燃する猟奇犯罪のニュー・ウェイブに敢えて乗って行こうというようなタイムリーな雰囲気が感じられたが、本作はそれに輪をかけたような超ニューウェイヴと言おうか。

 一言で言うなら、ノンストップ・サスペンスという以外にない。ジェットコースター小説のカリスマと言えるジェフリー・ディーヴァーなどがお好きな人であれば、本書も間違いなく楽しめるはず。かつてレイプ被害を受け、夫と娘を失い、さらに顔に傷痕を刻まれたFBI女性捜査官。こうしたヒロイン・イメージはそれなりに強烈なインパクトでもあるだろう。

 ましてや凝りに凝ったフーダニットが仕掛けられており、ヒロインの一人称だからこそ成功させることのできる心理的な仕掛けプロセスが、全章に伏流のように埋め込まれているあたりも精緻この上なく、ラストシーンへの置き石としても相当の唸らせどころと言える。

 二転三転は当たり前だが、並みのどんでん返しに終わらせず、ヒロインの再生にこだわったリベンジ・ストーリーとしての通底音を常に共鳴させつつ、これ以上ないほどに残虐な手口を、切り裂きジャックの再来と名乗る狂気のサイコパスによって実行させてゆく地獄絵的展開には、既に飽食感すら覚える。

 作者コーディ・マクファディンのサイトには、何と最初の殺害現場突入シーンの凝った動画がある。「Press Room」より「Watch a trailer for Shadow Man」を選択して頂きたい。母親の死骸と抱き合わせで縛りつけられ、三日間も過ごしたという少女の発見シーンに接続されるはずだ。ヒロインの片頬いっぱいに広がる傷痕も眼にするはずだ。

 その上FBIには凄惨な殺人ビデオが送りつけられる。劇場型犯罪の典型である。狂った連続殺人劇の中で、少女の再生、そしてヒロインの再生を賭け、最大のクライマックスに向けて疾走するノンストップ・ジェットコースター・サスペンス。最近のディーヴァーを超えていると言ってしまってももはや過言ではないのかもしれない。

(2007/01/03)
最終更新:2007年01月04日 01:49