我らが少女A






題名:怪物の木こり
著者:倉井眉介
発行:宝島社 2019.01.29 初版
価格:¥1,380

 完全なる読者応募型である「このミステリーがすごい!」大賞(宝島社)はリスクは伴うが、海堂尊のような大型作家も誕生させる。新人作家としては高額な賞金を目当てで応募される若い意欲も集められ、最初は原石でも将来性を見込んで選者たちが作品の何を見るか、作家のどこを見るかという辺りにも興味を惹かれる。何よりも大賞を獲る作品とは今、どんなものなのだろうか? 毎年でなくとも、数年に一度レベルで、国産ミステリの現在の風を伺うために読んでみた。

 アイディアや小道具には凄いひらめきが散らばっている。脳内チップ。洋館に閉じ込められた子供たち。野に放たれたサイコパスの群れ。トリッキー極まりない時制のずらし。さらに表題の『怪物の木こり』という童話が物語中に「幕間」という形で挿入されるが、これもユーモラスなようであり怖いようでもあり、作者のアイディアの広がりを伺わせる良い一幕だ。

 本作のアイディアの根幹となる脳内チップが少々SF的で、サイコパスとの関連が少々強引であるが、これを認めてあげないと作品全否定となるのでここは目を瞑って、全体の仕掛けの凝りように眼を向ける。不思議な連続殺人の殺し手である怪物は、斧で頭部を破壊し、脳の一部を持ち去る。怪物に襲撃され、難を逃れた主人公・二宮は実はサイコパスの連続殺人鬼である。しかし彼の殺人を問う小説ではなく、彼は被害者でありながら、真相を追う探偵役でもある。彼の親友もサイコパス。やり過ぎでは? 悪乗りと思えるくらいの意匠。思わず駄目出をしたくなるが、大賞作品なので眼を瞑る。

 荒っぽいストーリーテリングにも眼を瞑ろう。文章の気品などはこれから身に着けてくれればよい。とにかくスリリングで面白く楽しい、遊園地のような娯楽作品であることには間違いない。奇抜なアイディア、そして人間の生きる小説としての最後のポイントは抑えてくれている。サイコパスの涙。生き方の選択。数多いトリックとトラップの果てに、しっかりと主人公、他の犯罪者をも救い上げようとしているに好感を感じる。

 アイディアの宝庫の作者と感じる。もしかしてローレンス・ブロックばりの短編作品で勝負するというのも手かもしれない。あるいは欧米ミステリによくあるように、彼の原作力と、文章で魅せる人との共作、というのも選択肢となるかもしれない。このアイディアを、流麗な旋律に乗せて語らせたいと感じたゆえに。

(2019.08.16)
最終更新:2019年08月16日 16:43