ブラック&ホワイト




題名:ブラック&ホワイト
原題:Unseen (2013)
著者:カリン・スローター Karin Slaughter
訳者:鈴木美朋訳
発行:ハーパーBOOKS 2019.6.20 初版
価格:¥1,167

 いきなりのバイオレンス・シーンに始まる一冊。襲われるは女性刑事レナ・アダムスとその恋人の白バイ警官ジャレド・ロング。殺し屋たちとの肉弾戦と直後に登場したのがウィル・トレント。ややこしいことに彼は潜入捜査中。地方都市メイコン。ジャレドは重症。レナはジャレドの命の危険にショック状態。

 修羅場から一転してジョージアの州都アトランタ。噂ではジョージア州にまで市場を拡大してきた姿なき大物犯罪者ビッグ・ホワイティを炙り出すために広域の捜査が展開している。送り込まれるウィル。ウィルの恋人で医師のサラ・リントン。ウィルのパートナーのフェイス・ミッチェル。

 このシリーズは潜入捜査官ウィル・トレントのシリーズと銘打っていながら、ウィル以外はほぼ女性ばかり。そしてウィルの他に三人の女性たちの目線で描かれる章(レナ、サラ、フェイス)が多いばかりか、彼女たちの動きがそれぞれに重要なファクターとなり、謎多い事件から多重的に真相という核に迫ってゆくプロットが凝りに凝って、素晴らしい。

 司令塔アマンダ・ワグナー。メイコンの捜査指揮官デニース・ブランソンなど、他にも主役を取れそうな濃い女性キャラクターが、それぞれの個性を競い、会話をぶつけ合い、単純に見えた事件の裏側に見えてくる行方不明の子供たち。ネグレクト。DV。小児性愛。昨今の犯罪小説ではもはや馴染みとなった、異常な要素がここでも例外ではなく、暗い世界の住人たちを照らし出そうとしている。

 女性作家であるゆえに、会話によるかけひき、情念のぶつかり合い、すれ違い、情熱の濃さ、さらに言えば濃密な母性といったものが、捜査そのものに相当に影響を落とす物語を紡いでくれる。そして最後には、驚愕の真相が待っている。謎の深さと、男性作家ばりのスリリングなアクションが同居した骨太の力作なのだ。

 巻末の北上次郎解説によれば本ウィル・シリーズは、ウィルは名ばかりの狂言回しで、実際の主人公は作品毎に上記に挙げた女性たちが交代で務めているのが実情であるらしい。本作にも過去のいきさつとそれによる人間関係の距離感など、会話の端々に出てくるところ、シリーズを順番に読まなかった罰を少なからず受けてしまった。できれば、最初の『三連の殺意』から、さらにできればその前章に当たるサラがヒロインのグラント郡シリーズ(『開かれた瞳孔』一冊しか邦訳されていないし、廃刊なので万単位でしか売っていない様子)から読むとさらに流れや人物相関が理解できて楽しいらしい。

 豊富にあるカリン・スローターの著作だが、嬉しいことに本シリーズ最新作が、あちらで何やら大賞を射止めたらしく、今後邦訳も早くなったり増えたりしてくれるのではないかと、期待できる状況なのである。

(2019.07.03)
最終更新:2019年07月03日 14:57