サイレンズ・イン・ザ・ストリート



題名:サイレンズ・イン・ザ・ストリート
原題:The Sirens I The Street (2013)
著者:エイドリアン・マッキンティ Adrian McKinty
訳者:武藤陽生訳
発行:ハヤカワ文庫HM 2018.10.25 初版
価格:¥1,180

 北アイルランドはベルファスト北隣の田舎町キャリック・ファーガス署勤務のショーン・ダフィ巡査部長を主人公としたシリーズ第二作。時期を待たず次々と三作まで翻訳が進み、出版社・翻訳者の意気込みを感じさせる、何とも心強いシリーズである。

 ショーンは、巡査部長と言いながらその実は私立探偵と変わらぬ孤独なメンタリティの持ち主である。警察内マイノリティであるカトリック、大学卒という二点により、組織人でありながら孤独なヒーローという特性を持たせるという本シリーズならではの設定が、何より魅力的だ。

 当のショーン・ダフィは、だからと言って疎外感などにめげていない。直属の部下たちとの人間的で率直な会話から見えてくるのは、勝気で直線的でありながらも、仲間たちを思いやる熱く温かい性格である。ショーンの私生活からは、音楽や小説へのこだわりも見え隠れする。作者自身を投影しているのではないかと思えるほど、描写に鋭い洞察が感じられる。作品タイトルが、トム・ウェイツの曲から抽出されていることからも音楽へのこだわりを強く見ることができる。

 前回はショーンの独走が良い結果をもたらしたものの、本書ではまたも部下を巻き込まぬ単独捜査での決着を選択することでショーンは苦行を強いられる。バラバラにされたトランク詰めの死体がアメリカ人のものであることから、事は各政府機関や権力機構の一部を成す企業までを巻き込む厄介な代物になってしまう。

 途中で投げ出したくなるような事件だが、関連する第二第三の殺人との繋がりがうっすらと見え隠れしてくる捜査を通し、ショーンは謎を秘めた女性と出会う。荒れ果てた北アイルランドの海辺の寒々しい土地にたくましく生きる女性とショーンとの会話や映画のようなシーンは、美しくもあり、危険の匂いも漂わせ、本書の中でもとりわけ印象深く強いアクセントとなっている。

 アメリカは、ボストンにまで舞台を移すこの大がかりな事件のさなか、ショーンは苛烈な試練を負わされながら、真実に辿り着こうと徹底してあがく。苦しみの果てにしか生まれない決着を求めるこのショーン・ダフフィこそ、このシリーズの最大の魅力であり、彼の生きた土地と時代がその個性を際立たせる。

 グッド・シリーズとの出会い。早くも三作目に取り組んでいる当面の喜びだけでも、とりあえずお伝えしたいと思う。

(2019.06.04)
最終更新:2019年06月04日 11:09