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札幌刑務所4泊5日



題名:札幌刑務所4泊5日
作者:東 直己
発行:光文社文庫 2004.6.20 初刷
価格:\495

 1994年に扶桑社文庫にて出版された『札幌刑務所4泊5日体験記』の改題新装版。というよりも絶版になって久しい作品の復刻版と言ったほうが真実に近いだろう。新たにこうした形での掘り起こしがなされるというのも著者人気の反映ということで、ファンとしてはただただ有難い限り。

 作品そのものは札幌刑務所という非常に限定したローカルな刑務所のことであり、実はここはぼくの現在の仕事場のすぐ近くなので、ときどき昼飯を食べに車で外に出るときなどはこの界隈をうろついたりもする。だけど、刑務所の存在そのものが自分の中で薄くもあって、ああ、ここが自分が必死になって探していた東ノンフィクション作の舞台だな、なんてことはなぜか全然考えたことがなかった。

 本書を読みに当たり、実は自分の今働いている近所のことであり、東直己という作家が事実同じ街の作家であるという親近感を、本州の読者とは違うあたりで持つ特権を自分は有しているのだな、とあまり実のない優越感に浸っていられることがどこか嬉しかったりするところ、自分はしみじみ小市民であると思う。

 その小市民の代表のような視点でともかく酒の肴になる話題作り、あるいはライターとしての仕事ネタとして、わざわざ刑務所体験をしようと企んでゆく作家の表情が何とも可笑しかった。そのわりに刑務所の中のルポルタージュそのものはさしてこちらに興味もないせいか、期待ほどのものは感じられない。

 それ以上に作家が体験したわずかなことから、文章のプロとしての矜持を持って一冊の本にまで仕上げてゆくプロセスが感じられる点が、意外な力作として楽しかったりする。この後この作家は畝原シリーズのようなもっともっと暗黒の小説を描くことになり、そこでは司法そのものの権力の中に悪の構造を見出すのだという意識をもってみると、まだまだ反権力、反司法という意味での怒りが見えないあたり、ここからどうやって今の東作品の萌芽が生じていったのかといったあたりが、むしろミステリアスで興味深いところなのかもしれない。

(2004.11.07)