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古傷



題名:古傷
作者:東 直己
発行:光文社文庫 2004.11.20 初刷
価格:\476

 今年の東直己はほんとうに精力的だ。これまでの寡作ぶりが嘘のように新旧取り混ぜて本という形に仕上げてしまう。本書も文庫オリジナル書下ろしということで、軽いタッチの探偵ユーモア・ミステリではあるが、この作家らしい権力への憤怒が渦巻き、ペンより強い剣にまるでドン・キホーテのような戦いを挑んでいる。

 短編小説『逆襲』の主人公、ヨイショ探偵・法間=通称・幇間(ほうかん)探偵。相手を持ち上げヨイショしては篭絡し、事件解決につなげてゆくという腕はいいが何ともふざけた探偵である。くるみ嬢に継ぐ意表を突いたキャラクターと言っていい。

 前半はこの探偵の執拗なヨイショに始まり、北関東の田舎町を牛耳るエスタブリッシュメントのお屋敷に仕事を請け負いにゆくところで費やされる。後半はいよいよ権力構造の闇に迫る。こんな軽妙で200ページ強の短い小説であっても、権力の闇に対抗してペンを振るうジャーナリストを脇役として強く浮き立たせてゆくあたりは、やはり東直己ならではの小説という告発の形なのだろう。

 奇しくも本日の「北海道新聞」朝刊の第一面では、道警の腐敗構造、内部告発された闇ガネの実態を道警本部が調査したら、上の指示ではなかった、個人が勝手にやったことであり、構造悪である証拠はどこにもなかったというふざけた結果であった。新聞は、誰にでもわかる隠蔽体質と厚顔無恥な発表を強く糾弾している。

 現実と小説との地平があまりに繋がるからこそ闇の深さが恐ろしい。本書では道警を離れ、権力構造が大戦前後にやらかしてきた悪にまで触れている。

 巨悪を、おちゃらけた探偵に追及させている図面はどう見てもアンバランスであり、その図こそが、今の北海道の、そして日本の姿であり、そこでもがく東直己という作家、ぼくら市民たちの不安定さであるように見えてくる。

 表現の自由とそこに圧力や暴力を解き放つ権力構造。これがシンプルに示されていることこそがどこまでも印象に深い、それでいてライト・ハードボイルドの枠を出ていない不思議さは、この作家にしか書けないスタイルであるのかもしれない。

(2004.11.23)