勝ち逃げの女王 君たちに明日はない 4




題名:勝ち逃げの女王 君たちに明日はない 4
著者:垣根涼介
発行:新潮社 2012.5.20 初版
価格:¥1,500-



 小説の中に自分がいる。そんな気持ちにさせられるのがこの連作中短編集『君たちに明日はない』シリーズである。リストラ請負人・村上信介が現れると、短編毎にサブ主人公となる各種職業の誰かは、仕事と人生の見直しを強いられることになる。自分の生活の中で果てしなく続くかに見えた日常が、危うく儚いものとなり、自分自身と改めて向かい合うことになる。

 小説中のキャラクターたちが自らの人生を問うとき、自分はどうだったろうか、どうなのだろうか? と問いかけざるを得なくなる。あるいは自分に類似する部分を登場人物に発見する時の驚き。人間の個性とは? 人間の選択肢とは? いろいろなことに向き合うことで、より正しい自分自身の在り方を考える機会を持つ。

 そんな性格を持つからこそ、このシリーズは人気シリーズとなり得たのだろう。全5作と長いシリーズだと思う。前作では旅行業も題材になったが、垣根涼介は近畿日本ツーリスト所属の添乗員の経歴を持ち、ホーチミン市での体験を元にデビュー作『午前三時のルースター』を書き上げ、その語、南米を中心にしたクライム小説を書くようになったのである。

 さて4作目では、高橋社長の経歴が明らかになる外伝のような短編『ノー・エクスキューズ』が収録されている。

 また、『永遠のディーバ』という作品が今回は印象的であった。

 某巨大音楽関連会社をモデルとした「ハヤマ楽器」に勤務しつつ、ポプコン習ぬロックコンというコンクールイベントの優勝・準優勝経験者二人を軸に、音楽のプロ・アマの差を厳しく描く。自らプロのライダーを目指し挫折した経験のある村上にとっても、この会社は系列の発動機メーカーとして強いインパクトを持っていた。読者である自分は、弟こそプロミュージシャンになったものの、自分は素人ミュージシャンとして楽器を楽しみ、実人生は趣味とは何の関連もない仕事に従事していた。趣味と才能と仕事。それらのバランスを問われる面談のシーンがいつになくハードな展開となるシーンをお見逃しなく!

 軽ヒューマン小説といったこのシリーズ、最後はどのように締まるのか。主人公の村上がこの世界を去ってゆくのか。ドラマをずっと見ていたわけではないぼくにはこの先がわからない。また自分と向き合うみたいにこのシリーズ最終巻とも、いずれ向き合ってみたい気がしている。

追記:本書は現在『永遠のディーバ 君たちに明日はない 4』と改題されています。




(2019.4.6)
最終更新:2019年04月06日 11:52