張り込み姫 君たちに明日はない 3 (再読)




題名:張り込み姫 君たちに明日はない 3 (再読)
作者:垣根涼介
発行:新潮社 2010.01.15 初版 2010.1.25 2刷
価格:¥1,500

 重たい海外小説の後に本棚から取り出して読み始めた。未読だと思っていたが、9年前にしっかり読んでいた。レビューまでしていた。まあ。いいかと内容を全く忘れたままで読み始めたところ、NHKでドラマ化されたものを見た記憶が蘇ってきた。田中美佐子と堺正章の脇役陣は想い出したが、坂口憲二の主役はあまり印象にない。ぼくの中でこの小説の主人公は、フィットしていなかったのだろう。坂口憲二では少しイケメン過ぎる。

 アウトソーシングでリストラを請け負う会社、というのがバブル崩壊後のこの時期には売り上げを伸ばしていて、資本金が勧めの涙みたいなこの小さな会社を舞台に、仕事の退職や移動や見直しということをポイントに様々な職種に就く人たちの、人間の棚卸しが改めて題材として面白くて、この作家うまいところに眼をつけたものだと、そのストーリーテリング含めて感心したものだ。そもそもこの作家はクライム小説が素晴らしく、それをおっかけていた筈なのだが、どういうわけかこのシリーズ、より平凡な小市民の現実に寄り添った小説でも、山本周五郎賞を獲得しちゃった。やはり実力があるのだなあ。

 シリーズは、リストラ請負人・村上伸介をレギュラーとした連作中短編集で、それぞれの作品毎に個性的なゲストキャラクターが登場。両側の眼線を入れ替えながら展開する、非常に読みやすいストーリーである。作品毎に会社が変わるので様々な業界や、変わった職場なども覗きながら、そんなバリエーションのなかで、様々な種類のゲストヒーロー&ヒロインたちが取り上げられる。彼らの生き方を巡る物語。

 個人的には自分もリストラを受けたことがあるし、リストラをせねばならぬ立場にも立ったことがあり、小説を読みながらもそのときの両サイドでの自分の判断を棚卸しさせられるような、少し、自分の人生の鏡みたいな小説だな、と冷やりとさせられるところなどもありつつ、それ以上に自分のやってきた仕事を振り返り、そこそこいい仕事をやってこられた部分もあったりして(もちろん不甲斐ない結果も山ほど!)、今の仕事ももっともっとレベルアップしたりして行きたいものだなあ、などと心を入れ替える機会になるのは、この本の中でいろいろな人たちの人生に向き合えたからだと思います。

(2013.3.28)
最終更新:2019年03月28日 16:48