ライダー定食



題名:ライダー定食
作者:東 直己
発行:柏櫓舎 2004.9.14 初刷
価格:\1,619

 いやはや。大森望氏の帯の言葉の「奇想小説」という言葉が耳に残る。帯の裏には「サイケホラー短編集」。読んでしまえばなるほどシュールレアリスムに満ちた、あまりにも逸脱、あるいはフリースタイルな作家としての東直己が見えてくる。

 表題作以外はデビュー前の作品で、大方が『北方文藝』という雑誌に発表されているあたり、作品集『死ねばいなくなる』と同系列かと思われる。だが、本書のほうがより過激度が高く、印象的であると思う。

 何よりこの版元、柏櫓舎が凄い。詳しくはこのホームページに行っていただければ話は早いが(→http://www.hakurosya.com)、社長はなんとあの山本光伸氏ではないか。山本氏は石狩当別あたり在住とは聞いていたが、これほど独自な出版社を作って、そこで初めての東作品を出版したとは何とも因縁めいたものが感じられて(勝手にだけど)興味深い。

 そういえばぼくの大好きなデイヴィッド・リンジーという作家をハードカバーで出したものを少し前に買ったのだがこれも柏櫓舎であった。どちらもカバー絵に凝っていて、本を大切にしている感じがして、しかも北海道発信というのが嬉しくてたまらないところなのである。

 本書の内容に関しては、ススキノ便利屋シリーズや畝原シリーズのどれとも違うということだけを言っておきたい。だが、デビュー前、いろいろなエネルギーを溜め込んで書き綴られた作品であるその密度だけはどの短編からも感じられる。東直己という既成概念から離れて、新たな(実は古くて原点であるのだけれど)局面を見つめるためには、東ファン必見の一冊ではないかと、ぼくは思う。

 デビュー事はいえ比較的初期に書かれた表題作『ライダー定食』の屈折、黒さというのは、これはなかなかに今の東作品のノワール志向を暗示しているように感じられるのだが、いかがだろうか?

(2004.11.07)
最終更新:2006年12月17日 22:52