ブルーバード、ブルーバード


題名:ブルーバード、ブルーバード
原題:Bluebird, Bluebird (2017)
著者:アッティカ・ロック Attica Locke
訳者:高山真由美
発行:ハヤカワ・ミステリ 2018.12.15 初版
価格:¥1,800


訳者:高山真由美
発行:ハヤカワ・ミステリ 2018.12.15 初版
価格:¥1,800

「ジョーがまずギターを取り出した。沢山の人々の--ジョーの、次いでマイケルの、そして今やランディとダレンの--運命を変えたギブソン・レスポール」

 伝説のギターマン、ジョー・スウィート。彼のギターをシカゴから追いけかけてきたマイケル・ライトの遺体がバイユーで発見された。ついで白人女性の死体が同じバイユーの少し下流で。

 東テキサス、シェルビー郡。人口178人の小さな田舎町。法律家になる道を妻や叔父に強く促されながらも、テキサス・レンジャーとして生きているダレン・マシューズを主人公に、人種間偏見と暴力が容認されるアメリカ南部の田舎町に起こる葛藤をいくつも重ねたように描いて、世の複雑さと人間と人間が向き合い、対立し、また憎み、愛する姿を、これでもかとばかりに描いてみせるその筆力に脱帽したくなるような一冊である。

 自らの人種差別と性差別に無頓着なトランプだったら顔をしかめそうな黒人女性作家アッティカ・ロックの、デビュー後4作目にしてアメリカ探偵作家クラブ賞最優秀長編賞・英国推理作家協会賞スティールダガー賞・アソニー賞長編賞と英米の文学賞三冠を達成した優秀作。

 しかし日本人読者が好んで手に取るようなミステリー色は強くない。偏見によるヘイトクライムに包まれた町では、はっきりと右と左に陣営が分かれるからだ。この小説の舞台は小さな田舎町。道路が一本。道路沿いには二軒の店がある。片側は白人男性が集まる酒場で、もう一方は黒人女性ジェニーヴァの経営する食堂だ。白人の中には、ABTのメンバーもいる。KKKをさらにラディカルにしたような暴力的なほどの秘密結社アーリアン・ブラザーフッド・オブ・テキサス。この存在は本作で初めて知った。

 黒人のテキサス・レンジャーであるダレンのトラックの運転台には血まみれのキツネの死体が投げ込まれるし、ジェニーヴァの店は銃撃の威嚇を受ける。小さな町で死体が二つ、さらに暴力、ここに迷い込んでプロ・デビューを予定していたのにヒューストンにまで到達できなかったギターマン・ジョーの伝説。

 そして物語のかしこに鳴り渡るブルースの数々。本書のタイトルは、ジョン・リー・フッカーの曲『ブルーバード』から取ったもの。どろっと濃い南部の熱気の流れる町、別居中の妻と転職とに悩むダレンが目にするアメリカの真実がここに込められている。どの人物像も半端じゃなく描かれており、深い。シリーズ化されるとしたらその前段は十分に語られたと思う。期待したい。

 ちなみにアッティカ・ロックには、2009年にデビュー作として邦訳もされている『黒き水のうねり』という作品もあり。ヒューストンのわけありの黒人弁護士が主人公だそうだ。ううむ、これも読まねばなるまいな。

(2019.2.28)
最終更新:2019年02月28日 11:02