贖罪の街





題名:贖罪の街(上・下)
原題:The Crossing (2015)
著者:マイクル・コナリー Michael Connelly
訳者:古沢嘉通
発行:講談社文庫 2018.12.14 初版
価格:各\880-

 ハリー・ボッシュという史上稀に見る魅力的な刑事と出逢ってもう22年になる。

 インターネットすら未だ普及していなかったその頃パソコン通信仲間であった翻訳者の古澤さんが本シリーズのヒットで一躍活躍したことから大阪で彼を囲んで仲間たちと酒を酌み交わし、本シリーズの凄さを熱く語り合った記憶ももう霧の向こうの遠い時代の一幕のようだ。

 ベトナム帰還兵であるハリーも今やロス市警の退職を余儀なくされ、別シリーズ『リンカーン弁護士』の主人公でハリーの異母兄弟でもあるミッキー・ハラーと共に本書では困難な事件に立ち向かうことになる。

 ショッキングなイントロに始まり、法廷劇、ハリーの単独捜査、そして対決、法廷と、手に汗握る展開は止むことを知らず、相も変わらずのコナリーワールド健在なり!

 実はぼくは、年末にAmazonPrimeのオリジナルドラマ"Bosch"全4シリーズを続けざまに観た。何作かを同時に展開させるシナリオをよく組み立てたものだと感心しつつ、作者コナリーがエグゼクティブプロデューサーに名を連ねていることでなるほどと合点した。

 そのドラマで貫かれているのが、ハリー・ボッシュという主人公の一途さなのである。警察組織の中で上手く立ち泳ぐことよりも、個としてのプロ意識を憎むべく犯罪者と被害者の無念に向けて、揺らぎなき行動を選んで行く姿こそが、読者を惹きつけているのだ。

 このロングシリーズで確実に信頼し続けることのできたハリーという一刑事の生き様と彼への共感を、ドラマは再検証させてくれるものだったのだ。

 そうした興奮醒めやらぬうちに、本書の登場である。

 実は前作『燃える部屋』に、個人的にはどこか燃えきらない感じを感じ、ドラマチックなラストシーンであれ楽観は許されなかった展開であったので、二転三転して予測を許さぬ本書の物語構成には、実に溜飲が下がった。文句無しのお薦め極上作品!

(2019.1.20)
最終更新:2019年02月25日 16:48