あたしにしかできない職業



題名:あたしにしかできない職業
原題:Two For The Dpigh (1996)
著者:ジャネット・イヴァノヴィッチ Janet Evaovich
訳者:細見瑤子
発行:扶桑社ミステリー 1997.10.30 初版
価格:¥629-


 ぼくは、ヒロイン型ハードボイルドも、ユーモアハードボイルドもどちらも、まあ、あまり読まない。だからどういうわけで、我が家の書棚にそのどちらのファクターも抱えているこの本が転がっているのか自分でもよくわからない。およそ四半世紀近く前になると思うが、どうやってこの作品はぼくの本たちの中に紛れ込んだのだろう。ぼくが買った? 誰かがくれた? あるいは、当時の冒険小説&ハードボイルドフォーラムのオフ会でよくやっていたブックプレゼントで手に入れてきた。読まないくせに。何となく三番目の要素が濃そうな気がする(苦笑)。

 いずれにせよ本はしばらくぼくの本たちの中に紛れ込み、四半世紀を生き延びたのだ。本にもぼくにもそれは良いことであったような気がする。本書は1ダースほど和訳されている女バウンティハンター、ステファニー・プラム・シリーズの2巻。できれば1巻から読みたかったが、もしそれが我が家に紛れ込んでいるにしても今のところ発見にいたってはいない。作品との出逢いというのは、かように運命が左右するところのものなのである。

 主人公を食うくらいの印象深いブラックギャグ・キャラクター、メイサおばあちゃんも思っているように、バウンティハンターと言うと、ビリー・ザ・キッドを撃ったパット・ギャレットみたいに、賞金のかかったギャングに対してリボルバーの弾倉を空にして、硝煙にまみれながら、自分でこしらえた亡骸を、馬の鞍に縛りつけて保安官事務所に運び出すものだと思っていた。

 しかし現代のバウンティハンターは、保釈保証人事務所に雇われていて出頭命令を無視している罪人を裁判所の下に連れ戻す仕事をしている人みたいで、この職種の存在自体が問題にもなっているのは、アメリカという国が西部劇の世界しか歴史を持たないことの負の遺産みたいなものだろう。

 保釈補償人という職業もあまり馴染みがないだろうが、クエンティン・タランティーノ映画『ジャッキー・ブラウン』(原作はエルモア・レナード『ラム・パンチ』)ではロバート・フォスター演じた保釈補償人は、ジャッキーの良き相棒として印象深く保証人という職業を知る上でとてもわかりやすかったように思う。観ていない方は、映画は傑作だし、タランティーノ幼少期からの憧れのパム・グリアはとても魅力的なので是非この機会にDVD等でお楽しみ下さい。

 さて本書の面白み、読みどころだが、ずばりアンバランス・コメディ、というところである。発生しているのは相当な凶悪犯罪であり、凄惨な暴力の被害者も少なくはないのだが、我らがヒロイン、ステファニーの世界は、個性的な家族に囲まれたファミリードラマを演じつつ、ファッションやダイエットがより重要となる女子的世界にあくまでマイペースに生きている。彼女の助けとなるレンジャーや刑事だけを見ると皆、ダーティ・ハリーの友だちであるかに見えるのに、そんな世界を職業として選んで、わざわざ掻き回す役柄がこの愛らしきステファニー・プラムなのである。

 これなら続々とシリーズが売れまくるのは不思議ではないな、と思わせるほど、キャラの立った不思議世界。しかも明るく面白く、どこか安全でほっとできるずっこけアクション。男たちの闘うリングに独り立ち向かう女子異次元ワールド、これは、やみつきになりそうだ。

(2019.2.17)
最終更新:2019年02月25日 13:08