リバー・ソロー



題名:リバー・ソロー
原題:The River Sorrow (1994)
著者:クレイグ・ホールデン Craig Holden
訳者:近藤純夫
発行:扶桑社ミステリー 1995.9.30 初版
価格:¥740-


 思わず読みたくなるような表紙、手頃な厚み、スコット・スミス、ジェイムズ・エルロイ、ジェイムズ・クラムリーと、当時の旬な作家たち絶賛とある誘惑的な帯。以上の理由により、当時40歳ジャストのぼくは、この本を買ったのだと想像される。その年の1月に札幌転勤となり、第一次北海道生活に少しずつ慣れ始めた頃の自分に想いを馳せると、多忙な仕事や子育て(息子はまだ2歳だ)に気を取られ過ぎたぼくは、何かの弾みでこの本を読みはぐれてしまったに違いない。今でも手が延びそうなリリカルな表紙。さぞかしデニス・ルヘインみたいな、情感のある作品なんだろうと思い、今ようやく、時間の壁を飛び越えてこの力作を読み終わる。

 しかしながら、少なくともこの作品を絶賛しているスコット・スミスの『シンプル・プラン』ほど語り口の素晴らしい作品でもないし、エルロイやクラムリーほど魅力的なタフガイたちの造形に優れた作家でもなかった。

 デトロイトに近い田舎町を舞台に、薬物犯罪の闇を掻き回して死体を沢山取り散らかしたような派手な事件。それらを背景に、医師と刑事という二人の地味でナイーブな男たちの目線で綴られる物語。彼らの未熟さを上回りカバーするほどにタフな女たちの存在が、結果的には辛うじて、駄作になりそうな若書きデッサンを地底から掬い上げているといった印象の一冊だった。

 件の『シンプル・プラン』と同訳者である近藤純夫さんは、ヤマケイの常連でもあるハワイ探検のスペシャリストで、翻訳の方は娯楽小説向きというには、少し真面目な感じなので、作者とフィットし過ぎで、ともかく印象は固い、固い。ルヘインを期待したのに、あの音楽的な心地よい語り口などはどこにも期待できない。

 人物造形に力を入れる点は好感が持てるのだが、主人公の医師の甘えた性格に最後まで共感を得られなかったのは残念。さらに数作の翻訳作品があるのだが、そこまで極めて行こうという冒険心は、残念ながらぼくのうちには湧いてこない作品であった。ミステリーとしてはかなりの構築力があるので惜しいところなのだけれど如何せんキャラクターの独りが残念なのでした。

 トリックの一つを犠牲にしてでも、女の側から描いていたら、ずっと好きな作品になっていたかもしれない。あくまで好みとは思うのだけれど。

(2019.1.31)
最終更新:2019年02月25日 13:08