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ホット・キッド





題名:刑事ザック 夜の顎(あぎと) (上・下)
原題:Zac (2014)
著者:モンス・カッレントフト&マルクス・ルッテマン Mons Kallentoft & Markus Lutteman
訳者:荷見明子
発行:ハヤカワ文庫HM 2018.01.15 初版
価格:各\760-

 日本の刑事小説やアクション小説は、ハードボイルドからバイオレンスにいつしか変ってきたようにうっすら思っている。ハードボイルドの流れは断ち切れてしまい、小説が劇画的傾向を強めているような小説読者としての危機感を感じている。

 海外小説はどうなのか。世界にも、日本と同様の傾向はもともとなかったわけではない。むしろ銃器を合法化している国や兵隊上がりの作家などは、装弾した銃を身に着けて歩く文化が当たり前のことのようで、それらを非合法に用いる主人公像だって特に珍しいことではなかったように思う。それでも劇画化したように、空白の多いページ、行替えの多いパラグラフが近年目立ってきて、とても読みやすいアクション劇画小説のような傾向にすら翻訳小説界も変容し始めていることを感じざるを得ない。

 本書は、そうした行替えを多用する散文詩的傾向の強い小説である。最近、北欧小説の若手作家たちの間で、この傾向が強まったように思える。アンデシュ・ルースルンド&ステファン・トゥンベリの『熊と踊れ』はそうした、いわゆる読みやすくテンポの良いリズムに終始していた。

 ドン・ウィンズロウの『野蛮な奴ら』などにも見られるこのスピーディでテンポの良い、まさしく音楽的なとでも言いたくなるほどに早読みしやすい小説は、その行間の多さゆえに、実は行間で語るべき主題の質がより問われる高難度作品であるように思う。

 本書は、そうした高難度な技術に挑んでいるネオ・ミステリの流れなのかな、と第一に感じた。ザックという若手の刑事の個性に焦点を当て、この刑事の未熟で不完全な部分を前面に出しつつ捜査面での刑事的執念や野生的な勘については一目置いている。刑事としての劇画のようなラディカルさ、斬新さを表に出しながら、今までにない若手刑事としての才能により事件を断ち割ってみせてゆく。その視点、断面、切り口とそれらの語り口、すべてにおいて器用な文体による魔法を見せてゆく。

 何度の高い表現される内容については、粗削りだが硬派なテーマを固めてきたという印象も強い。国際的背景まで含めた移民問題については深い。今まさにTVニュースを席巻しているクルド族問題や、東ヨーロッパのグルジア、ラトビア、リトアニアのソ連時代からの迫害の歴史と、彼らが移民として脱出した先(ここではまさにスウェーデン国内)での差別とヘイト犯罪、人身売買組織、麻薬組織などなど、日本ではあまりお目にかからない規模や浸透度での硬派でリアルタイムな社会問題の数々。若い刑事ザックが目の前にして、今まさに戦わねばならない犯罪の暗黒性は本シリーズの今後も焦点となってゆくだろう。

 ザックを固めるチームの個性も強く、それぞれに出自や障害、民族的理由等々により差別に曝される側に属する捜査官たち、そうでない捜査官たち、ザックの隣人、友人、過去の関係者たち、そしてザックの過去そのもの。どれをとっても、これからザックが挑もうとするヘラクレスの12の難業の残り11に向けて予め決められた駒の配置であるように思える。そう、本シリーズは12作を予定して書き始められた新シリーズである。

 バイオレンス度が強いのと、ザックの無鉄砲ぶりなどに非現実的肌触りを覚えはするものの、浮上してくるスウェーデンと国際情勢へのアンテナを高く張り巡らせた貪欲な作家たちの姿勢に注目してみたい新シリーズの、これは狼煙のように目立って見える第一作である。

(2018.3.26)