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オンブレ


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題名:オンブレ
原題:Hombre (1961) / Three Ten To Yuma (1953)
著者:エルモア・レナード Elmore Leonard
訳者:村上春樹
発行:新潮文庫 2018.02.01 初版
価格:\550-

 正直、エルモア・レナードの良い読者ではないものの、数作品は読んでおり、それらのいずれをもぼくは気に入っている。老後の楽しみとして、彼の未読作品はとっておこうと思っている。いわゆる、信頼のおける名うての作家だ。

 次に訳者のこと。村上春樹の小説はほぼすべて読んでいるけど、翻訳はほとんど手にしていない。唯一読んでいた村上翻訳は、もうだいぶ昔、1996年のことになるけれど、衝撃的で今も忘れることのできないマイケル・ギルモア著『心臓を貫かれて』という死刑囚の現実に迫ったノンフィクション作品である。なので、超有名な万年ノーベル賞候補作家・村上春樹だからという理由で彼の翻訳書にとりわけ興味を持つことはない。

 どちらかと言えばエルモア・レナードの名の方が本作への興味の優先順位となったのだ。そこに村上春樹という訳者が重なったことは付加価値みたいなものである。レナード作品をあまり読まないのに本書を手にした理由は、何とレナードの描いた西部劇=ウエスタン、ということと、それがとても古い時代に書かれたものであるという2点であった。中編と短編の二作で、村上春樹いわく二本立て西部劇と思ってほしいとのことだが、中編『オンブレ』はぼくが5歳の時に書かれたもの、『三時十分発ユマ行き』は生まれる三年も前に書かれたもの。というわけでいわゆるお父さんたちの時代の娯楽小説なのだということへの興味にワクワクしながら本書を読み進めていった次第。

 訳者のキャッチフレーズ通り、本書は何も難しいことは考えず、二本のウエスタンを楽しく読めばよい内容である。どちらも緊迫感のある西部劇そのものの物語で、とりわけ『オンブレ』は幌馬車に乗り合わせたいずれも曰くありげの老若男女の七人が、生死を分ける運命に引き込まれてゆく一大冒険小説とも呼べる作品だ。淡々と語られる物語の中で登場人物たちのセリフが活きており、なるほどこうして人間たちの思惑はぶつかり合い、その中でより正しい心と悪しき心、美しく潔い生きざまや逃げられぬ人間愛への想い、それらには縁なく欲望に向けられてしまう破滅の人生、などが生死を越えた俯瞰的価値観の目線で描かれている。

 『三時十分発ユマ行き』は短い作品だが、死を賭してユマ行きの汽車に犯罪者を護送する運命の保安官の物語で、まるで『真昼の決斗』みたいに彼の孤独で気高い仕事が切り取られて見える。保安官にだって家庭も人生も歴史もあるのに、銃弾の雨いわゆるガントレットを潜り抜けねばならない。そんな短い時間に凝縮された西部的の魅力を味わうことができる。

 翻訳者としての村上さんは、よくぞこんな作品を見つけ出してくれたものだ。今ではあまり見られることのない西部劇は、映画の世界ではぼくら日本人にかつては微笑んでくれたけれど、小説としてはほとんど翻訳されない分野である。そんな状況を悲しんで、慈しんで、村上さんは古いセピアカラーのような西部の砂塵と火薬のにおいをぼくらのお茶の間に届けてくれたのである。

(2018.3.26)