プラージュ




題名:プラージュ
著者:誉田哲也
発行:幻冬舎 2015.9.15 初版
価格:\1,500-



 同じ作家なのに、ある時は、放り出したくなるようなエロ・グロ・バイオレンスの後味まで嫌な作品を書くかと思えば、天使のような物語をを紡ぎ出すこともある。不思議だが本当だ。この誉田哲也が実にそういう風な作家だ。

 ここのところ『ケモノの城』を筆頭に、血と汚物に塗れたかのような小説で世間を圧倒しようとしていたこの作家に少し辟易気味だったのだが、そもそもこの作家が持っている語り部的才能を、優しさや愛や人生の哀感といった、言わば万人が期待するような方向に駆使し、仕上げた久々の作品に出くわしてほっとした。

 もちろん刑事小説などでも気持ちが悪くなるほどの暴力シーンを沢山描く作家なのだが、一方で青春ロックバンド小説『疾風ガール』『レイジ』や体育会系青春女子小説『武士道シックスティーン』などの明るいウエットな分野でもけっこうな腕を見せてくれる。かと思えばデビュー当時はホラーや幻想小説なども書いている。

 いわばジャンル万能な作家なのである。それらをあまり分けずに統合してはどうなのかなと思うときがたまにあるのだが、この作品『プラージュ』がどうやらその方向としてうまく行っているのではないかなと少し感心したり、すっきりしたりした、というのが正直なところである。

 姫川玲子やジウのシリーズばかりを求める激辛系の読者にとっては、このほろ苦くもきっぱりスイーツ系の作品のにおいが鼻につくかもしれないが、実はぼくは誉田哲也の魅力はこういうふんわりとやわらかい触感と血と暴力の無慈悲な世界とが交錯する双方の鏡面的世界構築にこそ存在するのではないかと常々思っているのだ。

 その意味では本書はミステリとしていくつかの事件を読み解き進めることもできるし、弱く脆い人々の人生の光と影を通して人間の成長劇をしっかりと味わうこともできるいい具合のエンターテインメントなのではないかと少し嬉しい作品でもあるのだ。

 キャラクターに個性があり、それら出会いにより大小のドラマが組み合わされる展開で、どの人間をとってもスケールはともあれ劇的要素に満ちている。つまらない人生などひとつもない。そういう書き切った感のある作品として作者としてもひと際嬉しい作品なのではないだろうか。

 こういう作品で読者層を厚めにすることで誉田ワールドはさらに広がってゆくものになってゆく気がするのだが。もうケモノの城はごめんだ。ただでさえこんな時代。救いのない世界はこりごりなのである。

(2017.1.29)