生か死か




題名:生か死か
原題:Life Or Death (2014)
作者:マイケル・ロボサム Michael Robotham
訳者:越前敏弥
発行:ハヤカワ・ミステリ 2016.9.15 初版
価格:\2,000-



 ニュージーランドの作家ベン・サンダースが地元ニュージーランドのシリーズから離れ、アメリカを舞台にした作品『アメリカン・ブラッド』でブレイクしたと同様に、オーストラリア生まれの作家マイケル・ロボサムは、永く住んだイギリスを舞台にしたシリーズから離れ、アメリカを舞台にしたこの作品で何ともはや、ゴールド・ダガー賞(英国推理作家協会賞)を勝ち得てしまった。

 二冊の外国人によるアメリカの小説を立て続けに読んでしまったために、ぼくの中で混乱が起きているのは、どちらも三人の目線を主として書かれた小説であり、その一人は女性刑事、どちらも正悪入り乱れ、バイオレンスとサスペンスに満ちた伏線だらけの作品であるからだ。

 『アメリカン・ブラッド』は二十代新進作家の若さに満ち溢れたラップテンポとでも呼べるリズミカル作品にウエスタン・ヒーローを配した娯楽作品であるのに対し、本書『生か死か』は、じっくりとスロウテンポで描かれながら、圧倒的な謎の深さで勝負する正統派ミステリであり、同時に純文学的描写力ですら読みごたえを感じさせる重厚無比な大作である。

 刑期満了し明日は出獄を迎えた日に敢えて脱走したオーディという主人公像そのものが本書最大のミステリだ。その同僚であったモスは刑務所長により特例で釈放され、オーディの後を追う。さらにFBIの女性捜査官デジレーが別の角度から事件の真相に関わってゆくというトライアングルな視点で、本書は年月を超えた謎の気配を満たしたまま大河のように流れてゆく。

 その中で過去の罪を隠蔽しようと現代に悪の手を再び振り上げようとしている権力社会に潜んだ一派らしき存在が次第に見えてくる。罪深い罠にかけられた無罪の主人公こそオーディであるのか? 多彩な登場人物が繰り広げる神話のような物語はどこでどう繋がってゆくのか? 迷宮を歩く不安と謎への探求心がページを否応なく繰らせてゆくパワフルなミステリ。

 だからこその受賞である。イギリスを舞台とした臨床心理士ジョー・オローリンのシリーズ、またはそのスピンオフ作品も多く書いてきた作家である。日本語翻訳作品はオローリン・シリーズ第一作『容疑者』のみとなるが、今後注目を集める作家のひとりとなるのに違いない。良い作家と出会えた幸運を感じさせられる。

(2017.1.8)