ねじれた文字、ねじれた路




題名:ねじれた文字、ねじれた路
原題:Crooked Letter,Crooked Letter (2010)
作者:トム・フランクリン Tom Franklin
訳者:伏見威蕃
発行:ハヤカワ文庫HM 2013.11.15 初版
価格:\940-



 短編集『密漁者たち』で、この作家をマークするようになり、妻べス・アン・フェンリイとの共著『たとえ傾いた世界でも』で、ミシシッピ川の歴史に残る氾濫を背景に壮大南部冒険小説を書き上げたことにも心打たれたと言うのに、ブラインドスポットに入ってしまったために恥ずかしながら長らく気づかなかった作品。それが本書。2011年ゴールド・ダガー賞とLAタイムズ賞を受賞しているというのも、読めば頷ける。

 徹底して南部の田舎を生き生きと描く作家というと、そう多くは思い浮かばないものの信頼に値する作家たちが心の中をよぎる。ジョン・グリシャム。ジョー・R・ランズデール。バリー・ギフォード。

 その意味ではトム・フランクリンは徹底したディープ・サウスの熱気や湿気を小説内に持ち込みそして詩情を謳い上げることのできる作家として、代表選手なみの扱いを受けていいほどの書き手である。

 本書はどう見てもミステリーのジャンルに入る一作ではあるものの、トム・ソーヤーやハックルベリー・フィンが生き生きと走り回る世界の純文学として読んでしまっても何ら問題のない傑作であり、それなりの高貴さを湛え持つ逸品である。

 登場人物は数えるほどで、しかしそれら一人一人の隔絶感や、個性の強烈さは他にたとえようもない。それらの磁力や引力が、物語に周到な磁場を作り出す。何よりも語り口は懇切丁寧で誠実ですらある。そこにこの田舎小説の書き手の気品や気位を感じる。

 小説は主人公の一人ラリーが銃撃され倒されるところからスタートする。孤立した変人として知られる主人公は、自己表現が得意ではない。何やら怪しく孤独な生活を営む。町はずれの自動車修理工場を父親の代から受け継いでいるが客は一人としてここに来ることがない。しかし、だからと言って彼が撃たれていいことにはならない。

 では、なぜ?

 そんなミステリアスな展開から、彼の幼年時代を彩るかつての黒人の親友サイラスが登場する。彼はラリーの幼なじみでありながら、今は距離を置く存在である。そして職業は「治安官」、保安官の下で働く準警察官のような存在であろうか。限られた権限の中で町の平和を補助する役割とでも言おうか。

 サイラスは恋をし、過去を引きずり、かつての親友ラリーと長い長い時間を隔てて再び人生を交錯させるようになる。そのきっかけは銃撃であり、恋人による事件の発見であり、そして到達点は、ラリーの救済であり、贖罪であり、事件の解決であり、かつての幼年期に秘められた真実の認定である。

 少年期の交情、青春期の惑い、人生の立て直し、そんな純白にも似た素敵なストーリーが、凶悪で血に塗れた犯罪や森の暗い陰りや湿り気とは対照的に展開する深みこそが超一級のエンターテインメントを作り出している。曰く忘れ難い物語を是非ともご賞味あれ。

(2016.8.17))