硝子の太陽 N -ノワール




題名:硝子の太陽 N -ノワール
著者:誉田哲也
発行:中央公論新社 2016.5.15 初版
価格:\1,500-



 『ジウ』のシリーズ自体が、現実性に乏しい歌舞伎町封鎖という事態まで風呂敷を広げてしまったものなので、その続編がその影響を受けて軽めになってしまうのも仕方ないと思うが、事実続編として次々と作品を上梓してゆかなければならいのも、作者、あるいは版元の方向性によるものだろう。一旦完結したかに見えた『ジウ』シリーズの続編として『歌舞伎町セブン』が書かれた時点で、何もシリーズに無理やり繋げることはなかったように思うが、『歌舞伎町セブン』が、単発であるかに思えた『ハング』と、シリーズ『ジウ』のそれぞれの生き残りの主要キャラクターがメンバーにいるという点でのみ、『ジウ』でも『セブン』でもない『歌舞伎町』シリーズが継続されることになった。

 そもそもが『歌舞伎町セブン』は現代の歌舞伎町を舞台にした『必殺!』シリーズである。この世の悪を制裁する闇の殺し屋たち。だからこそ殺しの方法を知っている者。その殺人のプロのような存在を、過去の作品からひねり出したというのが、過去作品の読者をも引き込もうという目的を明確に感じさせながら進行しつつ変異してきたのだろう。

 一方でドラマ化や映画化がなった姫川玲子シリーズと、同タイトル同時性の別事件でクロスオーバーさせることで、ジウ+セブンの『歌舞伎町』シリーズの方もさらに参政権を得ようとしているのかもしれない。主語は作者か出版社なのかは不明だが、ともかく。

 『ジウ』で広げた大風呂敷を、どちらかと言えば『硝子の太陽 R -ルージュ』の姫川玲子ヒロイン作品ではなく、こちらの『N -ノワール』で広げざるを得なかったのも、宣伝活動の必要性がこちらの方が大きいからかもしれない。

 というわけでこちらの大風呂敷は、沖縄と米軍の問題。それに対する反政府団体の闇の活動、しかしその裏には裏がある。その裏の世界では、まるであの残酷で何ものも生み出しそうにない腐り切ったような小説『けものの城』を想起させるサディズムと狂気に裏打ちされた支配的行動がある。だが物語は復讐チーム『セブン』のものだから、彼ら闇のサディストであり謀略者である者たちには、『必殺!』チームの仕置が待っている。

 実は、ずっとこの作者を追いかけてきた読者の一人として、腐敗した暴力を面白おかしく描き続ける作者の傾向に少し食傷気味になってきていたのが真情である。腐敗があれば浄化が必要だし、再生なき未来には小説の道を辿りようがない。やはり『セブン』は本書ではカタルシスの役柄をきっちり引き受けてくれたし、『ジウ』の復活は不要だと思う。

 本書は、『硝子の太陽 R -ルージュ』とペアリングされたクロスオーバー作品である。上下巻の作品ではないので、どちらを先に読んでも構わない。これまで『ジウ』シリーズも姫川玲子シリーズも読んでこなかった読者でも作品自体は7割くらいは楽しめると思う。しかし本作品は明らかに二つのシリーズからリンクされた続編である。過去作品も予め読んでおく方が登場人物を深読みすることができるのでよりベターであろう。

(2016.8.16)