犬の掟




題名:犬の掟
著者:佐々木譲
発行:新潮社 2015.9.20 初版
価格:\1,800-



 作者得意の警察小説、かつノンシリーズ作品。最近は道警シリーズも少し軽めの作品が多くなり、シリーズとしての魅力も、作中人物の間でさしたる軋轢もないままに薄れつつある中、ここのところ『地層捜査』以来の快作が途切れている印象があったが、本書は久々の作者真骨頂での娯楽小説ぶりを発揮してくれた感があり、少しほっとする。

 最初に時計を巻き戻した時制での少々刺激的なプロローグシーンがあり、それがとても重大なのだろうと、とても気になりながら、その後現在時制に追いついての通常の刑事捜査小説といった構成となる。ただ事件を捜査する二組の刑事たちが、あのプロローグに繋がる関係者たちであることだけが、気になる。

 少なくとも彼ら二組、四人の刑事たちの捜査シーンにより、二つの捜査が交互に描写される。ハードボイルドを絵に描いたような、素っ気なく、淡々とした描写であり、そこで少しずつながら事件が進展してゆくことがわかる。追うものと追われるものとの追いかけっこや、事件にかかわる者たちとの事情聴取、地どり、勘どりといった作者の真骨頂が続くなか、『地層捜査』シリーズの空気に似たもの、つまり捜査そのものが真実に近づいてゆく面白さというものを感じ続ける。

 これらは古い時代よりエド・マクベインの87分署シリーズなどでお馴染みの面白さであり、その後も多くの警察小説の書き手は捜査イコール、エンターテインメント性といった形で作品を提供している。

 しかし二組の捜査チームのうち一組は、秘密捜査であり、警察内部の捜査チームである。そこに通常の警察小説との違いがあり、ストーリーにはひねりが加えられる。疑いたくもない同僚を仮想真犯人として追い立てる刑事班の二人はだからこそデリケートな存在だ。

 そしてすべてが終盤で炸裂する。用意された伏線がここに来て意味を強め、二組の捜査チームは火のついた二本の導火線となり、大団円の大花火を奇しくも演出することになる。刑事たちも読者たちも騙されるこの一瞬の娯楽性こそに喝采しておきたい作品である。

(2016.8.14)