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死のドレスを花婿に



題名:死のドレスを花婿に
原題:Robe de marié (2009)
作者:ピエール・ルメートル Pierre Lemaitre
訳者:吉田恒雄
発行:文春文庫 2015/4/10 初刷 2015/4/20 3刷
価格:\790

 今年は昨年の『その女アレックス』の大ヒットを受けて、フランス小説としては異例の翻訳化の嵐が吹き荒れている。年間3作品も翻訳出版されるスピードは、海外小説ということからしても奇異な現象である。何かの受賞作品一作だけで翻訳を見切られる作家も、海外小説という不況市場では珍しくない状況下、このような空前のヒットは歓迎すべきことである。これを機に北欧ミステリに続いてのフランスのミステリ、ひいては海外ミステリの翻訳に順風が吹いてくれることを期待したい。

 そのためには一発屋的ヒットではなく、次々と翻訳紹介される作品の品質が同等またはそれ以上のものであることが期待されるのだが、<ピエール・ルメートル>ブランドは、本書を読む限り、安心かなと思われる。この作家に期待されるどんでん返し、さらにダブル・ツイスト、トリプル・ツイストというプロットの秀逸さ、さらには語り口などが、ポスト『その女アレックス』の期待感にしっかり答えてくれているからだ。

 さて、翻訳出版としてはこの作品だけ異例のスピードだったが、実はこの書は既に『その女アレックス』以前に単行本として翻訳されていた柏書房(2009年)の文庫化である。いわゆる埋もれていた傑作、というわけだ。これを読んだ編集者が衝撃を受けて『その女アレックス』を出版にこぎつけさせたというから、その編集者の先見の明がしっかりと結果につながったというわけだ。素晴らしい!

 本書は、確かに衝撃を受けるような小説である。今、読んでいるものが、次にここまで覆されるとは読者は絶対に思っていないはずだ。しかし、今目の前に展開している描写を、裏の視点でもう一度語られてみると、別の世界が広がってゆく。章が変わるだけで、ここまで変わる作品は珍しい(実は、これも今年文庫化されたセバスチャン・ジャプリゾが『新車のなかの女』で、奇しくも同じフランス・ミステリとして同レベルのアクロバットをやってのけているのだが)。

 ハイレベルのツイストを見せてくれた作品だが、さらに屈折した悪の心に深みを添えてその原因理由をまでしっかりと裏付けてみせた本書の奥行、そこに潜む暗闇の黒さは作者ならではのものである。当分目が離せない作家が、こうしてまた増えてゆく。素晴らしい!

(2015.08.09)