犯罪


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題名:犯罪
原題:Verbrechen (2009)
作者:フェルディナント・フォン・シーラッハ Pheldinand von Schrach
訳者:酒寄進一
発行:創元推理文庫 2015.4.3 初刷
価格:\720-


 2012年に読書界の話題を独占した短編集として知られている本書は、1994年から刑事弁護士として活躍しているシーラッハのデビュー作である。15年間の弁護士活動の間に書き溜めたものなのか、それまで溜め込んであった事件の裏にある物語を一息に短編として書き始めたものなのかは謎だが、事件というものが持つ多様性そのままに、語られる物語も多種多様である。

 どの作品にも作者は顔を出すが、それは極めて一部である。裁判にならなければ、あるいは弁護活動を引き受けなければ作者はこれらの物語中に顔を出すことはかなわない。犯罪に関わる人間のそれまでの物語は、生きている時間の分だけ長いけれども、弁護士である「わたし」が関わるのは事件を接点にした弁護活動のわずかな断面においてのみである。

 短編作品は、行間に多くの物語が詰まった印象を残す切れ味鋭い刃物で切り取られた非常に短いパラグラフ
で構成される。リズムとテンポよく読めるが、内容は、血のごとく濃く深い。そこに人間という多様性が呼吸をして生きてきているからである。

 『罪悪』を読んでから改めて振り返ると、本書『犯罪』の方が少しアクティブで危険な要素が強いように思う。最初の短編集ということで力が入っており、『罪悪』では少々書き慣れてきたことによるのか、肩の力が抜けて少し余裕を持ったものが多いように思う。笑いの要素であるとか、寄り道とかそういったものが。だから『犯罪』の方が、毒が強く、少し危険な要素をはらむ。

 人間の正気と狂気の間を漂いながら、弁護士という仕事を通じて、非日常の分野に長けてきた作者シーラッハは、まさに同職と人生の先輩である自殺した叔父の影響を色濃く持つ。文庫版の本書には、単行本にはない作者の序文が寄せられている。そこで語られるのが、亡き叔父の謎の死と、彼の遺した言葉「物事は込み入っていることが多い」である。確かに、多い。どの物語も込み入った事件と、込み入った顛末を扱っている。

 すべての作品に「りんご」が象徴的に登場しており、物語によっては「りんご」は作中人物たちの人生を圧倒的に変える。「込み入っている」事情の代名詞のような存在が「りんご」なのかなと思えるような、本短編集のすべての物語の共通項である。それもまた罪や人生と同じく、不思議、としか言いようがないのであるが。

(2016.3.22)