ギャングスター・レッスン



題名:ギャングスター・レッスン
作者:垣根涼介
発行:徳間書店 2004.06.30 初版
価格:\1,700

 いろいろな賞を受賞すると、一気に知名度が上がるから次の仕事が舞い込むのだろうと思う。嫌だといっても、文芸雑誌連載用の原稿にどうか書いてくださいと依頼されるのだろう。じっくり書きたいと断ってもしつこく編集の人に粘られるのだろう。

 そういう意味では、今までになく早書きをしたなという印象のある本書は、『ヒート・アイランド』の続編である。前作の主人公アキは二十歳になり、プロの犯罪者チームの一員となる。もちろん前作で重要な役割を果たした柿沢と桃井のチーム、及川の抜けた後にアキが入り込むというエンディングをそのまま引き継いだ形になるのが本書である。

 しかし文芸雑誌文化の功罪を強く感じさせる出来になってしまった。連作短編のような長編。つぎはぎしつつ作り上げる日本特有の長編文化。書き下ろしということが如何にも贅沢と思える。書き下ろしで読者を獲得した新人作家が、売れてしまうと雑誌連載作家になってしまうのが残念である。

 ぶつ切り、水増し、長編というより、シリーズ短編みたいな味わい。そんものは本来この作家には求めていはしないのだが……。

 しかもさらに続編として『サウダージ』が八月刊行になるらしい。シリーズというのは、ある意味楽な方向でもある。まるっきり白紙から考えるストーリーではなく、既に作り上げたキャラクターたちを使って、違う物語を考えればいいからである。

 垣根涼介に、まっさらの物語を期待していなかったといえば嘘になる。シリーズとして書いてもらうのも構わない。でも軽快ピカレスクといった本書のようなタッチでイージーに前に進めていただきたくはなかった、というのがぼくの感想。

 もちろん垣根らしさは随所に見られる。もろもろの一連のギャング入門が終わって棹尾を飾るFILEという見開きのページが、なんとも洒落ていると思う。アキの恋に発展しそうな終わり方もなんとなく気になる。

 しかし、おまけと書かれた短編が、最も垣根ワールドの核になっているような気がしてしまうのは、何とも皮肉である。

 垣根には、ぼくはとにかくより上を求めてゆき続けたい。なのでとても厳しく見つめていたい。とても複雑な思いをした一冊である。

(2004.06.27)
最終更新:2006年12月17日 22:27