失踪



題名:失踪
原題:Missing:New York (2014)
作者:ドン・ウィンズロウ Don Winslow
訳者:中山 宥
発行:角川文庫 2015/12/25 初版
価格:\1,320

 さて、異例の『報復』と同時発行、しかもUS本国での出版をさておいてドイツと日本で先行発売という作品のこちらは片割れだ。『報復』が、『犬の力』に似た活劇用のリズミカル文体で綴られた戦闘アクション復讐劇という大スケール作品であったのに比して、こちらはハードボイルドの一人称形式によってどちらかと言えば地道に描かれた失踪人捜査のドラマ。

 通常の警察小説と異なるのは何よりも主人公だろう。失踪事件が起こったネブラスカ州警察署のフランク・デッカーの異常なまでの責任感と捜査への執念が何よりも、他の類似小説群の追随を許さない。何しろ警察が匙を投げかけたと見るや、警察を辞職しこの失踪人捜しにかかりに切りになる。未練が残りつつも、妻との生活にも終止符を打つ。全米を旧式の自家用車で手がかりを求めて放浪する生活、という設定には狂気の片鱗すら感じる人もいるかもしれないが、この辺りはさらりとスピードアップする。

 しかし手がかりの一端に辿り着くや否や、フランク・デッカーの人生は、新たなステップを踏み始め、バックミュージックがさらにヘビーなものに変わる。生死すらわからない5歳の女の子の行方を追い求め、セレブの世界や地元警察、地元マフィアのファミリーにまで手荒い仕掛けを実行する。代償として食らうパンチの痛みは、捜査への手ごたえとしてデッカーをむしろほくそ笑ませる。

 『報復』でも見られた主人公の怒りが復讐の力となり、田舎くさいかもしれないヒューマニズムの真摯さが金やプライドの混在するニューヨークの闇を引っ掻きまわす。純朴な男の滑稽なまでの一途さと直進性が小気味よく悪党どもを破壊して突き進む。二冊同時刊行された作品のどちらにも通ずる怒りと正義のヒーロー像。元海兵隊という戦場での過去を持つ点も共通項。どちらも全く別の題材、別の世界を描いた小説ながら、どこかで二卵性双生児のように類似したものを内包しつつ、ドイツと日本で同時翻訳され、愛読者の手元に渡されている。まだ本書を手にすることのできないUS本国のファンがつくづく気の毒に感じられてならない。

(2016.3.1)