司法取引

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題名:司法取引 / 上・下
原題:The Racketeer (2012)
作者:ジョン・グリシャム John Grisham
訳者:白石 朗
発行:新潮文庫 2015.3.1 初版
価格:各\670

 無実の罪で投獄されている弁護士バニスターの独白に始まる本書。ある殺人事件が起こったことを知ったバニスターは、犯人を知っているという情報をもとに釈放および承認保護プログラムの取引を司法当局とFBIに対し持ちかける。おお、のっけからグリシャム節炸裂である。ページターナーぶりも健在。

 ところがいつものグリシャム節は、なんと前半だけだった。刑務所から出て名前や顔を変えたバニスターは、ある時点で唐突な行動に走ってゆく。司法当局やFBIの前からすっかり姿を消し、ある出獄した同房者にドキュメント映画のプロデューサーに成りすまして映画出演の話を持ちかける。顔を変えたために相手にはバニスターという名前も知らないまま、彼は恋人ヴァネッサと組んで凝ったミッションに取り掛かる。

 読者には行動の説明はなく、ただただ新たな展開と慌ただしいまでの二人の行動が語られるだけ。FBI当局からもなかなか尻尾が掴めないままに、バニスターの周辺は劇的な変化を遂げてゆく。前半で読んでいた物語を逆転、また逆転させるストーリー展開に唖然とするばかり。文庫版の腰巻に「コンゲーム」と書かれていなければ、本作がどこに進んでゆくのか、いつものグリシャム節とは異なる気配にいぶかしむ読者は、眉を顰めるに違いない。

 グリシャム自身、あとがきで「これまでの作品よりも虚構の度合いが高い」「事実に立脚している部分はほとんどない」と書いている通り、書き手ですらこの痛快な娯楽コンゲーム小説を楽しんできたかに見える。

 壮大な権力に潰される個人、人種差別、銃器による暴力、そうしたアメリカのかかっている病変をいつもながらの題材としつつ、そうした悪に知性で立ち向かう弱者(売れない弁護士、黒人、そして冤罪という立場の)主人公が、痛快な逆襲をどのように遂げてゆくのか、それが本書の醍醐味である。全体を俯瞰してみれば、やはりグリシャム節にしか見えないところが、またにくい。

 読者がいっぱい食わされる小説、それは常にビターがきいてコクに満ちた美酒である、とづくづくと思う。

(2016.1.10)