新車のなかの女


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題名:新車のなかの女
原題:La Dame Avec Des Lunettes Un Fusil (1966)
作者:セバスチャン・ジャプリゾ Sébastien Japrisot
訳者:平岡 敦
発行:創元推理文庫 2015/7/31 初版
価格:\1,120


 つい最近、ピエール・ルメートルの『死のドレスを花婿に』という作品で大逆転小説を読んだばかりなのだが、ルメートルが今を時めくフランス・ミステリ作家であるのに比べ、本書『新車のなかの女』のジャプリゾはそもそもミステリ専門の作家ですらない。ミステリというジャンルに入るのは『寝台車の殺人者』『シンデレラの罠』と本作くらいではないか。それなのに、1966年という遥か昔に書かれた作品が、既にルメートルのやっている大逆転の凝ったプロットによるミステリを実現していたというのは、驚愕以外の何物でもない。

 『新車のなかの女』は、最初から面白い。いきなりガソリンスタンドのトイレで何者かに殴られたことの独白から始まる。しかも初めて南下するはずのパリからリヨン経由、マルセーユへの道路を、勝手に持ち出した上司のサンダーバードを走らせている間に、何度も一日前に自分と会ったり話したりしたという目撃者たちにあちらこちらで出くわす。怪しげな若者との出会いと駆け引き。

 真相は何層ものタマネギの皮のような状況に覆われており、奇妙で不穏なロードムービーのように南仏に向け、サンダーバードとともに疾走する。もちろん用意されているのは驚愕の真相。秋冬に用意された時間と空間の罠が、読者を欺き、作者が得意とする女性の心理描写を主とする文章自体のレトリックによる幻惑を用いる。フランス小説ならではの、ノワールな人間関係と、太陽の輝く南仏への道。

 ページ数からは考えられない凝りに凝った職人芸のような世界が終始展開する一気読み必須のエンターテインメントが、半世紀前に作られたとは思えない鮮度をもって魅了する、まさしく奇跡のような一作である。

(2015.12.26)