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ブエノスアイレスに消えた



題名:ブエノスアイレスに消えた
原題:El Jardin De Bronce (2011)
作者:グスタボ・マラホビッチ Gustavo Malajovich
訳者:宮崎真紀
発行:ハヤカワ・ミステリ 2015/6/15 初版
価格:\2,300

 今はなきパソコン通信<NIFTY Serve>で冒険小説フォーラムを活発に運営していた頃、冒険小説は長ければ長いほど面白い、というような見方を持つ練達の読者が沢山いた。長いのがいい、分厚いのがいい、量は質を凌駕する、なんていう見方は、冒険小説を語る上で決して珍しくない意見だった。スリルやサスペンスに溢れる描写は、微細に描き、リアリティを持った描写で自然の脅威や戦闘の過酷さを露にしたものはやはり喜ばれた。あっさり読みやすい冒険小説なんてないんだ、というくらいの勢いで。

 されその意味では当時求められていた類の冒険小説に近い味わいの大長編ミステリがここに出てきたなというのが、本書に関する第一の感想である。しかも冒険小説では頻繁に扱われた舞台ですらある南米のミステリ。欧米人が書いた南米舞台の物語ではなく、正真正銘南米はアルゼンチン発の長編小説なのである。

 主題は娘の失踪。犯人はもちろん巻末に至るまでなかなかわからない。事件の発生から、その後の行方不明のままの人生の中で父親が選択する道は、娘の捜索以外にないという過酷な日々であり年月である。失踪事件を扱う小説はあまたあれど、これほど執拗に失踪した娘を探し求め、徐々に手がかりを得て、真実に辿り着く物語には出会ったことがない。ブエノスアイレスの都会の闇がもたらす足元からの不安定感は、さまざまに予測される事件への疑惑に満ちた主人公の内心を照らす心象風景であるかにも見える。その辺りを、書きなぐるではなく緻密にじっくりと書き込んでくれた結果が本書の分厚さに繋がったのである。冒険小説読者にとっては垂涎の作品だ。

 次第に南米の密林に向けて川を遡行してゆく主人公の辿る<闇の奥>への旅は、『地獄の黙示録』を彷彿とさせる現代の伝奇であり、辿り着いた先に見えてくる容赦ない真実にはこれまた様々な想いを生み出す痛く切なく苦しくしかし劇的なドラマが込められている。物語としての完成度が凄まじく、意外性も蓋然性もどちらも兼ね備えた大人の文学としてこの作家が邦訳されたのは喜ばしい。

 主人公は、この後、失踪人探しの探偵としての第二作目を生きることになるようである。衝撃的な第一作をどのように超えてゆくことができるのか、これからが楽しみである。

(2015.12.25)