ザ・ドロップ




題名:ザ・ドロップ
原題:The Drop (2014)
作者:デニス・ルヘイン Dennis Lehane
訳者:加賀山卓朗
発行:ハヤカワ・ミステリ 2015.03.15 初版
価格:\1,300


 一軒の酒場を舞台に、孤独な青年バーテンダー・ボブの周辺に巻き起こる、突風のようなできごと。始まりは、捨て犬との出逢いだった。

 アイルランド系移民の集まるボストンの下町は、そのまま社会というボトルの底に沈んでしまったみたいな街であり、夢や救いに見放されたような淀んだ時間に、誰もが人生を弄ばれているかのような土地である。

 そこに生きる印象深い人々と目立たぬ主人公ボブを巻き込むトラブル。読む進むうちに、これはスクリーンで観る映画のような物語だな、と思っていたら、なんと本書は、短編『アニマル・レスキュー』(2012年『ミステリ・マガジン』掲載)は映画化され2014年世界各地で公開(日本未公開)されているのだそうだ。そして本書はその映画の脚本を元に長篇小説に仕上げたものという、やや風変わりなプロセスを踏んで完成した作品らしい。それならば、本書にのっけから映画的な雰囲気を感じたのは間違いではなかったみたいだ。

 そしてこの街はC・イーストウッド監督により映画され『ミスティック・リバー』の街と同じ舞台だという。昔、少女が殺されたドライブイン・シアターの跡地という表現が作中に出てくるが、そういうわけだったか。

 ハードボイルド系のパトリック・ケンジー・シリーズより、昨今、ノワール系のコグリン家サーガが、ルヘインの優先創作活動になっている傾向からして、本書の世界である、バイオレンスと貧困の嵐が吹き荒れる下町は、作家の小説舞台としてうってつけの場所であるのかもしれない。

 男たちや女たちの、静かな生き残り術、知恵と人情と駆け引きと、と言った危険密度の高い時間が過ぎてゆく。長篇と言うのには200ページに満たない小編であるが、その濃縮された危険な時間を味わえる、ルヘイン・ワールド全開の秀作として取り組んで頂きたい一冊である。

(2015.05.13)