君たちに明日はない





題名:君たちに明日はない
作者:垣根涼介
発行:新潮社 2005.3.30 初版
価格:\1,500




 今年の長者番付でサラリーマンがトップを獲った話題に関してTVでかまびすしい。年間所得が百億円と、半端ではない数字ゆえに、メディアの取り扱いに対する熱心さも、国民のおそらく平均感情よりはるかに、際立っているみたいだ。

 当たり前のことをやっていては決して獲得できない所得を、人並みではない方法により、目の付け所を変えて稼ぐ以外に、サラリーマンがのし上がる可能性は、あまりないだろう。だから、百億円の所得を得るというところに関心があって当たり前だというのが、TV側の言い分なんだろう。

 しかし、それ以前にノースーツ姿のホリエモンが、ああしたオタッキーでもてない男との典型みたいな坊ちゃん面を曝け出しながら、野球球団やメディア会社の買収に乗り出すなど(どちらも成功していませんから!)、今の経済界はなんでもあり、という風潮が日本人の中にある程度の嫌悪感や好奇心、驚きとともに浸透し始めている。

 当たり前ではないことをやって、社会にそれを認知してもらえなければ、給与などはどこからも入ってこない。

 本書は、リストラのアウトソーシングを請け負う会社に勤める主人公が、さまざまな事情により会社から不要の烙印を押されつつある人間たちと丁々発止を繰り広げる話であり、長編でありながら、どこか連作短編小説集のようにも見える、例のスタイルだ。

 ただしそれを書いたのが、あの垣根遼一。企業などとはおよそ縁遠い個の経済にこだわってきた作者だからこそ、企業からスポイルアウトされゆく人間たちを、数字の論理と相反するようなそれぞれの事情と、アナログな情緒的部分への思慮により、これでもかというばかりの緊張感で描いている。

 人間が、清算ラインの一つの製品であるみたいに、ある部分でより分けられ、選別されることの残酷さをよくわきまえてこそ、書ける小説であり、時代を反映した、行き場のない社会の袋小路に立たされたような、緊張感が全編にみなぎっている。

 軽く乾いた描写の裏側に、溢れるほどの人間賛歌をこめるこの小説は、思えば、垣根と言う作家の原点を、これまで以上により明確に匂わせている。ストーリーのどこかに、人生のの分岐点を設け、ある種の頑固で明晰な助言を表現する作者の切り口。批判であり、選択であり、独歩であるそれら、アンチテーゼな何か。

 反骨がなせる現代の仕組みへの挑戦、というこの作家特有のテーマを、主人公は悩みつつも、ドライに、割り切り、若さを前面に押し出しつつ、打開する。

 今までのクライム・ノヴェル的方向とは、かなり違ったわれわれの日常側世界で、クライムの主人公を活き活きと横行させる、作者の新しい試みがここにある。

 読み終わって数日後、何と、この作品は本年度の山本周五郎を受賞したとのお知らせ。『ワイルド・ソウル』(日本推理作家協会賞受賞作品)とは、別の意味での、新たな世界を切り開いた、そのヴァイタリティだけは、この作者、やはり只者ではないのである。

(2005/05/22)