憂いなき街



題名:憂いなき街
作者:佐々木譲
発行:角川春樹事務所 2014.04.28 初版
価格:\1,600



 作家が自らの作り出したキャラクターに愛着を覚えるのはごく当然のことだろうと思う。将棋の駒のようにキャラクターを配置したとしても、その各々の部品に命を吹き込むのが作家の描写力なのだから、命を得た人間として、他者として、独立した体温を持つ存在として、ある意味、キャラクターたちは作家の手を離れて動き出してしまう。

 独立作品ですらその思いは作家の中にも読者の中にも生まれる感情であるのだから、ましてやシリーズものとなると何度も登場させてきた登場人物への愛着の強さは、推して知るべしである。そのキャラクター造詣が上手くゆけばゆくほど、彼ら(彼女ら)を深く掘り下げてみたいと腕まくりしたくなるのは作家の本願ではないだろうか。

 そうして作者にも読者にも愛されつつ育ってきているシリーズの一つがまぎれもなくこの『道警シリーズ』ではないだろうか。一作目『歌う警官』において道警裏金疑惑への引き金を絞った一連のシリーズ刑事たちは、のっけから組織からはみ出した役柄を割り当てられて強い印象を残したものだ。佐々木譲という作家にとって警察小説への扉を開いた記念すべき路程標(マイルストーン)であったに違いない。

 その刑事たちは、二作目以降の作品で事件を解決しつつ、少しだけ佐伯と小島の恋愛模様がデコレートされていたものだが、本書ではむしろこの二人の恋に重ねて、津久井の脛に傷を持つ女性ジャズピアニストへの恋がメインテーマとなって描かれてゆく。

 おりしも大通公園の二丁目ではサッポロ・シティ・ジャズ開催が始まろうとしている。ジャズ好きの屯するお馴染みの店<ブラックバード>が舞台となるシーンが多いのも、捜査そのものよりも主人公刑事らのプライベートな側面にスポットライトが当てられているからに他ならない。

 大通公園二丁目に大きな白テントが張られて長期間に渡ってジャズのライブが行われていることは知っていたけれども、その内容、価値、スケールなどについてはこの小説で教えてもらった。一年遅れで読んだ作品となったが、遅ればせながら今夏は、サッポロ・シティ・ジャズにも是非足を運び、小説の中で相当グルーブして感じられたジャズ熱を自ら復活させ、改めての現在を体感してみたいものである。

(2015.04.29)