夏の沈黙

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題名:夏の沈黙
原題:Disclaimer (2015)
作者:ルネ・ナイト Renee Night
訳者:古賀弥生
発行:東京創元社 2015.05.29 初版
価格:\1,836


 本を開いた途端、ばらばらにちぎれた破片が舞っている。

 引っ越し先で開いた本に20年前の自分が描かれていることにキャサリンが激しく動揺するシーンでこの物語は幕を開ける。誰も知らないはずのできごとが出版されて厳然と目の前にある事実に吐き気を覚えるキャサリン。

 一方で、異常な独白を続ける元教師。死んだ妻ナンシーとは? この元教師はキャサリンの物語にどう関与してくるのか?

 そうしたばらばらの破片は、ページを進めるとともに、パズルのように空白の場所にあてはまってゆく。時間的にも空間的にも飛散していた文章のピースが、現在のヒロインの家庭に集まってゆく。

 二十年前の秘密が少しずつ周囲に漏れ出してゆく。しかし本ではそれは暗示にとどまる。読んだとしても、それがキャサリンを描いたノンフィクションだとは家族であれ気づかない。

 しかしそこに元教師の復讐の老いた足音が迫ってくる。彼とキャサリンの過去の関係とはいったい? 元教師がキャサリンに求める者がなんであるのか? 失われた家族と、幸せの渦中にある家族。この差を埋めるために元教師は何をやろうとしているのか?

 最小限の登場人物で交わし合う愛・怨嗟・疑惑・誤解・不信・決意などの感情が、緊迫した人間ドラマを構成する。

 物語がどこに着地してゆくのか最後までわからない究極のサスペンスであり、一気読み必然のスピード感である。

 新鋭作家ルネ・ナイトは、まさに英国版湊かなえと言えよう。

(2015.04.28)
最終更新:2015年04月28日 11:16