サウダージ



題名:サウダージ
作者:垣根涼介
発行:文藝春秋 2004.08.10 初版
価格:\1,619

 『ヒートアイランド』のシリーズ二作『ギャングスター・レッスン』は連作短編集の形で、シリーズ主人公アキのいわば修行篇だった。短編という表現形式上、ぶつ切れの印象は否めないし、その分薄味で物足りなさが残った。次の作品への橋渡し的役目を負っていたと言ってもいい。あるいは作者として薄味であることを覚悟した上での連作短編集であったのかもしれない。

 『サウダージ』はそれらの負い目を引き受けて描かれたそれなりに作者の真髄を見せるべき勝負どころの作品でなくてはならない。そうしたハンディとプレッシャーの中でこの作家がどう勝負してくれるのか。『ギャングスター・レッスン』出版の時点でこの作品の上梓は既にアナウンスされていたから、シリーズ読者としては最初からそういう目でこの作品の第一ページを繰るのである。

 読者の熱い視線を感じているのかもしれないこの作者は、なんと『ヒート・アイランド』に『ワイルド・ソウル』の要素を持ち込んできた。それも冷血な若者というブラジル棄民から第二第三世代の姿を伴った形で。柿沢のお眼鏡に適わずギャングスター・レッスンを合格できなかった男。なぜ彼がふるい落とされたのか? 彼は一体どこへゆくのか?

 その孤独と疎外感を、コロンビア人娼婦DDに救われてゆく物語が本書の主テーマであり、サブストーリーがアキの新ギャング生活の第一歩という構図となっている。柿沢、桃井、アキという三人組を正面に持ってきてのシリーズ化という正当な形から一歩ずらして、新しいキャラクターのあがきや悶えを主軸にした構え方。これがこの垣根涼介という作家の良さだと思える。

 「サウダージ……二度と会えぬ人や土地への思慕」

 いきなりこのエピグラフで始まる本書は、きっちりとこのタイトルに落とし前をつけるようにして終わってゆく。落としどころへの搬び方というものは作家によって多分に違う。そこが楽しい。アクション篇というよりもずっとずっと恋愛小説に近い本書の柔らかさも若さも、最後には外れた青春たちの孤独と哀感に集約してゆく。それをドラマに変えてゆく筆力。ロマンの力を備えた作家であるとつくづく思う。

 大作ではないけれども好意的に読んでおきたい佳作と言える。

(2004.10.11)