ブルース



題名:ブルース
作者:桜木紫乃
発行:文藝春秋 2014.12. 05 初版
価格:\1,400



 前からこの作家に興味を持っていながら、直木賞受賞作すら読んでいない状況で、先にこれはと思う本が出てしまった。連作短編という形を取りながら全体が長篇小説としても読めるこの本、なんとキャッチコピーが<釧路ノワール>。

 釧路を舞台にした小説と言えば、高城高。彼の時代を超越した短編小説群は秀逸で、ぼくはとても好みである。何よりも、感情移入を見せない距離を置いた淡々とした文体に、日本ハードボイルドの始祖の一人と言われる意味を感じ取ることができる。

 さて本書の桜木紫乃も、その意味ではただものではなかった。8作の短編で、8人の女性を通して、一人の男を語らせる一冊となっているのだが、この男の生涯が凄まじい。一作一作の短編に凄みがある。異なる種類の凶器が並べられた危険な陳列台のようだ。それらを通して表現された男が、どのような修羅の人生を送ってきたのであるか、はっきりと表現することはせず、その断面断面だけを、切り口のように見せてゆく。

 男の生い立ちも(おそらくその親の生い立ちも)、小説の中で徐々に露わにされてゆく修羅の道だったのだが、釧路の底の底のような生活から脱け出し、いくつもの怪しげな職業を経て、裏社会の一大人物にのし上がってゆくという、おとぎ話のような成功物語も、陰影の濃いこれら短編作品群の連なりを通して見てゆくと、男の内側の闇の深さばかりが反映されているようにしか見えない。

 こういう不思議なモノトーンのノワールを書き切れる作者の筆力と、敢えて言えば、妄想力とに脱帽させられる。この方向性でさらなる凄みを追及してほしいと思うのは、きっとぼくだけではないだろう。

 ちなみに釧路や札幌の地理を知っていると、楽しみが倍々になると思う。それほど、釧路を知る作家の良さは、この遠き街の独特の匂い、音、港から湧き出す霧、寒さといったものすべてを小説に自然に写し込んでいるので、実は釧路という街がハードボイルドやノワールによく似合う、という新たな発見をかしこに見つけることができるのである。 

(2015.01.31)