判決破棄 リンカーン弁護士



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題名:判決破棄 リンカーン弁護士 上/下
原題:The Reversal (2010)
作者:マイクル・コナリー Michaeel Connelly
訳者:古沢嘉通
発行:講談社文庫 2014.11.14 初版
価格:各\830

 リンカーン弁護士も第三作目。一作目が時を経ず映画化されたことで、ミッキー・ハラーについては、売れっ子男優マシュー・マコノヒーの顔がイメージされるようになってしまった。ちなみに、ハリー・ボッシュの方は今春ようやくドラマ化が決定とのことで、映画には一本もなっていないのが不思議であるが、ぼくはボッシュの顔は最初からマイケル・ダグラスでイメージしている。ボッシュ第一作『ナイトホークス』の刊行が1992年だったから、おそらく1989年の映画『ブラック・レイン』あたりの印象がぼくの中でマッチしたのである。

 それにしてもリーガル・サスペンスは大変だというコナリーの一作目でのあとがきが嘘のように、次々とハラーものも、そしてこれまでで一番法廷シーンに主眼を置いた作品として本作を上梓しているのを見ると、やはりコナリーの努力プラス天性の才能に感嘆せざるを得ない。本書も間違いなく(もはや当たり前のことであるが)傑作である。

 法廷をハラーが請負い、法定外の追跡や活劇はボッシュが請け負う本書の形は、前作でハラーとボッシュが腹違いの兄弟であることが判明してからのスタンダードになりそうな予感があるが、ボッシュの登場しない作品もこの後登場するということなので、いい意味で読者を裏切り続けてほしいとの期待が思わずコナリーに向けられる。

 本書はハラーとボッシュの章が交代で叙述される。小説としては不自然ではあるが、ハラー部分は「わたし」の一人称で、ボッシュの部分は三人称で語られる。どちらも1/2ずつの描写なので何も副題で「リンカーン弁護士」と謳わなくてもよさそうであるが(原題では特に明記されていない)、法廷シーンが大半を占めるためリーガル・サスペンスとしての価値づけを出版社が明確にしたかったのだろう。

 二十年前の判決で受刑中の容疑者が、ある証拠品のDNA検査不一致により判決破棄に至ったため、検察側が刑事弁護士のハラーに白羽の矢を立て再審に持ち込むというストーリーなのだが、検察側に初めて立つハラーと前妻のマギー(そもそも検察側)の共同戦線が読みどころ。弁護士と検事との川を渡って法廷に立つハラーが、かつて別れたマギーの立場にも立ってともに戦うというところに面白さがあるのだ。

 なおハラーが調査官としてボッシュを指名したことにより、再捜査を行うボッシュの、狼のような捜査姿勢も改めて魅力あるものとして語られる。法廷の内と外で進められる物語は、誰もが思いも寄らぬ結末へ向けて波乱のうちに収束してゆくのだが……。

 原題のReversalとは法律用語では「判決破棄」と訳されるらしいが、「逆転」「反転」などの意味もある。弁護側であるハラーが、本書に限っては、検察側のテーブルにつき、被告人を無罪にしようと努めるのではなく、原告側に立って有罪を立証してゆくのである。

 またラストの二転三転する大逆転ストーリーもいつもながら天晴れ。こちらもReversalじゃないのかと疑ったが、考えてみれば逆転は毎作のことなので特に関連はなさそうだ。

(2015.01.22)
最終更新:2015年01月22日 17:33