白土三平伝 カムイ伝の真実





題名:白土三平伝 カムイ伝の真実
作者:毛利甚八
発行:小学館 2011.7.6 初版
価格:\1,500



 白土三平は、間違いなくぼくの中で手塚治虫と並ぶ巨匠漫画家の一人だ。今は、ぼくはコミックを全然読まなくなったのだが、なぜか活字本を読むのは問題ないのに、漫画を読むのは面倒くさいと感じるようになったみたいだ。

 一つには現代漫画の絵が好きじゃないんだと思う。ぼくの好きな漫画家は、白土・手塚の他、石森章太郎、永島慎司といったところで、すべて画風が好きだった。よく真似をして教科書中漫画だらけになって親や教師に怒られ、ぼくは漫画家になるんだと言ってさらに怒られた。

 友達の姉の家に行くと、白土三平やちばてつやなどの少年マガジンの表紙絵をとてもきれいに真似をして書くことのできる漫画のうまいお姉さんがいて、水彩で色までつけてみせてくれた。漫画の上手い人はぼくには尊敬の的であった。

 白土三平の世界は、何と言っても忍術がただの謎めいた魔法ではなく、科学的にその仕掛けを説明されるべき実際可能なものであって、それより何より殺し合うための残酷な手段であるということがとても印象的だった。

 首や四肢がばらばらになって空から降ってきたり、風車手裏剣で胴体が真っ二つに切り裂かれたりするシーンが漫画として、とても動きのある絵で活写されているのが、少年漫画なのにいいのだろうかと不安になるくらいだった。

 そして大人になるにつれ、『COM』から『ガロ』へと読書対象は移動する。白土三平が発刊した漫画雑誌『ガロ』は、とても子供には難しかったのだ。また手塚治虫の発刊していた『COM』は虫プロのアニメでの失敗による倒産とともに廃刊となりすごくがっかりしたけれど、ぼくも夢見る子供時代から大人の漫画の世界へと移行しなくてはならなかった。

 『ガロ』と言えばなんといっても『カムイ伝』である。『カムイ伝』は一部二部ともに外伝含めてすべて読んだという長期にわたるぼくは白土読者である。日本の古来からのヒエラルキーとそこにすら含まれぬ非人の世界を大河ドラマを軽く超えるくらいの長大さで書き綴った一大叙事詩だった。すべてが一揆や自然災害の渦に巻き込まれてゆく大団円はとてもショックだったし、漫画としてやってみせた志の高さに圧倒された。

 その白土三平の人生を振り返りつつ、なぜ彼が書いたものが『カムイ伝』であったのか、彼の漫画人生とはなんだったのかを、あまり肩の凝らないマイルドなエッセイ形式で紐解いてくれたのが本書である。伝記を読むことなどほとんどないのだが、白土三平の過去と現在についての今となれば貴重な情報媒体として、あの『カムイ伝』読者としては手を出さざるを得ない。

 そんな偉そうなことを言っても買ってから優に3年は経ってからこれを読んだ。急ぐ必要も感じなかったし、どうせ白土三平という漫画家は自分の人生にすっごく影響を与えた人なので、どの時点で読んでもやっぱり内容は興味深かった。

 父親が特高に狙われ拷問をくらった画家であったとか、戦時教育の中で息子の白土三平も画家を目指していたとか、疎開の田舎暮らしを通じて森や自然に触れ合い、後世は房総の海岸に住まいを設け釣り三昧の日々を送っているとか、正直あまり知らなかった白土三平の物語である。彼の作品以上に面白いとは言い難いが、今はもう彼の作品が読めない以上、少しの媒体であってもこの鬼才漫画家に触れることができてぼくはとても嬉しく、なおかつ作者と白土三平という人の交流を通しても温かなものを感じた。かつての同世代で白土ファンである人ならば、是非手に取ってみてはどうだろう。

(2015.01.15)
最終更新:2015年01月15日 17:40