満願




題名:満願
作者:米澤穂信
発行:新潮社 2014.12.10 17版 2014.03.20 初版
価格:\1,600



 今、最も話題となっているのがこの本ではないだろうか。『このミス』『週刊文春』ともに2014年の第一位に選ばれた傑作短編小説集。TVでも結構取り上げられており、「王様のブランチ」「ZIP!」などでも取り上げられ、凄い一冊とのメディアでの露出度ピカイチ、というくらいに取り上げられている。

 それらマスメディアが、実はあまりにも地味である読書(しかもミステリという狭小な分野だ)という個人趣味の対象である一冊の本に集中することは、そう多くないと思う。村上春樹関連は別として。もちろんマスメディアは本の売れ行きを加速させるので作者にとって決して悪いことはないと思うが、逆にあまりに褒められると、そのこと自体は相当のハンディをぶら下げてしまうことにはならないか。

 それでもやっぱり凄かった、というのが2014年の海外ベスト1に選ばれたピエール・ルメートル『その女アレックス』だったわけだが、あちらは完成度の高い長編小説としてしかも絶対に読者の予想を裏切る小説としてのスゴ技を見せて大向うを唸らせたものであり、何よりも、国産作品のようにマスメディアに大掛かりに取り上げられていない。悲しいかな、海外翻訳ミステリの売り上げは国産ミステリに比べて微々たるものだ。

 なので、海外ミステリよりも遥かに遥かにハンディを背負っての出走と相成った本書、メディアの前口上としては、何よりミステリとしての各短編の完成度の高さが挙げられているわけである。なるほど、ページを開いてすぐの『夜警』は凄い出来栄えである。タイトルに難があるが警備員ではなく警察官の話である。

 『死人宿』『関守』は、それぞれがホラーっぽい作りの構成なのだが、前者はフーダニットの亜流みたいな話でありながら落とし方に工夫があり、後者は結果的には俗っぽいかなといったところ。

 『柘榴』は美少女兄弟を題材にした結構優れもの題材だが、落とし方に現実としては相当無理がありそうで惜しい感じが否めない。少しツイストさせすぎたかな。

 『万灯』は、国際冒険小説のようでもあり、ノワールのようでもあり、それでいてある意味読者を最後に裏切るまでの伏線が味わい深い。

 『満願』は気づきやすいトリックに見せかけて実はさらに、というダブルツイストのひねりひねりで面白い。

 すべてに言えるが、トリックが面白いということは、それを綾なす人間たちが面白いということに繋がらねばならない。そうでなければただのクイズ謎解き小説に堕してしまう。そのトリックを仕掛けた人間の人情が生み出す悲喜劇模様にこそ、人間の賢さも愚かさも見え隠れしているのだ。

(2015.01.08)
最終更新:2015年01月08日 17:04