帰らずの海




題名:帰らずの海
作者:馳星周 
発行:徳間書店 2014.06.30 初版
価格:\1,600



 函館を舞台にした警察小説。連作短編集『約束の地で』、そして『淡雪記』(舞台は大沼公園だが)に続き函館とその周辺に纏わる小説は、どちらかというと他の場所を舞台にした小説よりも恋愛小説イメージが強いようだ。馳自らが「北海道で一番思い出深い街」と書く函館の秘密は何であるのか、と考えると、本書を読んでなおさら強く感じられたのは、馳の青春に少なからぬ影響を及ぼした女性の影、といったところか。

 そんな詮索はともかく、本書は立待岬というデートスポットとしても申し分のない場所に記憶を馳せる刑事の物語である。事件は現在に起こったが、現在パートと過去パートを交互に描く手法で、刑事・田原稔のドラマを描いてゆく。現在パートでは、入舟町の海から引き上げられた被害者女性の殺人事件担当として道警本部から函館に赴任したばかりの田原が事件に取り組む。

 過去パートではその被害者女性が、田原の同級生の妹として登場する。そして田原の悲劇的な過去や同級生一族に引き取られた経緯などが語られることで、現在と過去は一連の田原の物語であることがわかり、そして事件につながる時間軸がやがて今日の田原の足元に到達することでラストのさらなる劇的な展開につながってゆくのである。

 言わば現在の悲劇の構築とその語り部である馳星周の最も得意とする形である。ノワールといえばノワールなのだろうが、女性の悲劇についてはこの偶然性に関しては現実性から遠いように思えるし、無理やりのドラマチックな展開と走り過ぎの結末を思うと、せっかくの舞台設定、警察小説と歌った挙句がいつものこれかとの落胆を正直禁じ得なかった。よく上手く書けているからこそ、その安定ぶりが何故か寂しい。

 警察小説というよりも個人の歴史にこだわりすぎる故に警察であることの意味合いが薄まった感がある、いわゆる典型的な馳ノワール節。それが好きな人にはたまらないのだろうが、『約束の地で』などからは一歩も二歩も後退したように感じるのは、ぼくだけであろうか。

(2014.10.29)