雨の狩人





題名:雨の狩人
作者:大沢在昌 
発行:幻冬舎 2014.07.25 初版
価格:\1,800


 この狩人シリーズも四作目。毎回毎回佐江という無骨極まりない新宿署刑事とコンビを組むことになる相棒が作品毎に入れ替わるという毛色の変わったシリーズなのだが、脇役臭の濃厚だった佐江という刑事も、もはや押しも押されもせぬ主役の貫禄を持ち、作者の筆加減も佐江の魅力を相棒たちの口から語らせるなどサービスぶりが目立つようになった。

 佐江が引き立てば、一方のシリーズである鮫島がどうなるのかという問題があるにせよ、ここのところこの佐江のシリーズは好調極まりない。本作も今年の品評会ではいいところに取り上げられるのではないだろうか。

 さて毎回斬新で現実的な新宿署管内の操作模様を描いてくれる警察小説の雄である本シリーズであるが、今回は暴対法による悪しき影響、つまりヤクザが解体されてゆくゆえに、悪が見えないもの制御されにくいものとなってより犯罪傾向が残忍で容赦なくなって来たのではないかというのが本作の読みどころである。
 暴力団がメンツを捨て去り、企業舎弟という名すら持たなくなった一般企業や金融界の影に隠れ、堅気な世界との境界線が見えなくなった状況のなか、組織の中での個々のサバイバルも熾烈を極めてゆく様子は、北野武映画『アウトレイジ』のシリーズと同断である。組織の統廃合が繰り返される新宿の様子を描いて、本書は奇妙に複雑な重層構造を見せてゆく。Kプロジェクトという題材も、ネタバレになるのでここでは言えないのだが、タイムリーそのものである。

 一方で心を捨てたクール極まりない殺人者の姿が新宿の夜に屹立する。銃に魅かれ、銃のプロとなるために日本人としての人生も家族も仕事も捨て去り、単身海外に銃撃の機会を求めて旅立った男。外人部隊に入隊を求める軍事オタク同様に、戦場をしか求めない男の、狂気とは言えぬ種類の冷たい異常が見え隠れするおぞましさに作品は奇妙な陰影を帯びてゆく。

 そしてこの物語にさらに悲劇と苦難とたくましさを与える日本。タイ混血の娘、プラム。奇妙に静かな優等生に見えるがどこか謎がありそうな本作の相棒、谷神。などなど、脇を抑えるキャラクター群像にもまたも魅力が盛り沢山である。これぞ超エンターテインメント警察小説と言えそうな、堂々の貫禄を見せてくれた渾身の一冊である。

(2014.10.29)