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カッコウの呼び声




題名:カッコウの呼び声 私立探偵コーモラン・ストライク 上/下
原題:The Cuckoo's Calling(2013)
作者:ロバート・ガルブレイス Robert Galbraith
訳者:池田真紀子
発行:講談社 2014.6.26 初版
価格:\2,014

 読者モニターに応募した作品がプルーフ本でやってきた。上下合本の分厚くて腕の鍛錬になりそうな弁当箱サイズの一冊だった。しっかりした完成本ではないので、登場人物の一覧がない。一気に読めればいいのだけれど、ぶつ切りで読むしかない生活スタイルのぼくには、これが一番困った。何とも多くの登場人物が出てくるし、名前がイギリス式で難しい。

 これがアメリカで、また作者が故ロバート・B・パーカーだったなら、登場人物もスペンサーとかホークとか、とても簡単な名前だし、そもそも登場人物が片手で数える程しか出てこない。レギュラー登場する飼い犬の方が、ゲスト登場人物よりも登場回数が多いくらいだし、作品もやたらに分厚くはない。

 最近の海外ミステリは分厚さを競い合っているように見える。かつて一時代を築いていたスケールの大きなかつての冒険小説みたいだ。早川書房の誇るポケット・ミステリなどは、今ではポケットという言葉が不自然なくらいに分厚い代物と高価格の値段表示に姿を変えて、毎月書店の棚を、重厚でカラフルな背表紙イメージで飾っている。

 本書は、そうした最近のトレンドとも言えるような分厚いミステリの一つである。なぜ、さほどスケールの大きくないこの事件に、これほどの分厚さが必要なのだろうか。読んでゆくうちに、ははあ、なるほどと、ぼくは思う。そうか、最近のミステリは、主人公のキャラクター作りに重きを置いているため、事件とは別に、彼らの日常生活描写がかなり加えられている傾向にあるのだ。そういえばデンマークの傑作シリーズ『特捜部Q』も主人公や彼を取り巻く奇妙な人物たちのストーリーを、時には主たるミステリを超えるくらいに面白く描いている点が、思えばとても魅力的なのであった。

 コーモラン・ストライクという私立探偵に、その破天荒な日常生活上で連続して襲いかかる人生のピンチや、波乱万丈な軍隊での過去、そのために負った片足切断という運命を、義足と事務所の簡易ベッドなどという形で引きずらせることによって、事件以外の彼の人間的部分のストーリーが、メインストーリーよりもむしろ興味深い。そこに、ロビンというこれまた派遣スタッフの根アカな助手が加わって、彼女の一筋縄ではゆきそうもない恋愛模様が混じり始めると、事件以上にそれらの物語が印象的だし、主人公とその助手は魅力的である。

 それでいながら、本書はミステリ作品であろうと、とても深く意識しているように見える。謎ときの面白さ、最後まで見破りにくいフーダニットの楽しさ、そしてコーモラン・ストライクが次第に掴んでゆく真実、そして真犯人との対決、そうしたミステリならではの要素を確固たるストーリーテリングで解き明かし、大団円にまとめあげる筆力とリズム感。これが、新人作家ロバート・ガルブレイスの実力だ! そう誰もが驚くことを作者は希望していたものだったらしいが、その計画は実は無残にも破綻させられる。

 何しろ、この新人作者はある有名な作家の覆面を被った姿だった、という真実。編集者や出版社からその真実への迷路を辿られてしまい、実はその正体があの有名な女性作家、『ハリー・ポッター』シリーズのJ・K・ローリングと判明したのである。もちろんその時点で、本作品は、あっという間に15万部を売り上げるベストセラーになってしまう。完全に秘密裏に男性作家名義で純然たる小説の力で勝負したいと願ったローリングだったらしいが、その目論見はこうしてあっけなく破れ、本書は時を置かず世界を席巻するシリーズの出発点に立ってしまったのである。

 次作も既に用意されているシリーズとのことだ。ミステリという古い部分は素晴らしい出来だと思うが、その古くクラシックな英国伝統推理小説の骨子であるところには、あまり興味を持てなくなって来ているぼくにとっては、このシリーズは少し辛いかもしれない。しかし魅力的と少なからず感じざるを得なかったストライクとロビンのこの先の運命が気にならないではない、ってところが当面の心情なのである。

(2014.7.14)