仮面同窓会





題名:仮面同窓会
作者:雫井脩介
発行:幻冬舎 2014.3.20
価格:\1,600


 高校時代にさんざん嫌な目に合わされた体育教師に復讐をしようと四人のOB生徒がある悪戯を考えつくが、悪戯の翌朝、教師は湖上の死体となって発見される。互いに疑心暗鬼となる四人。

 と、ここまでなら平凡なミステリかな、と思われるが、この物語の主人公の洋輔には死んだ兄が別人格となって寄生しているらしい。その兄の独白が、いきなり小説中に挟み込まれるのである。雫井脩介は『犯人に告ぐ』などで、劇場型犯罪ならぬ劇場型捜査というアイディアを前面に出し、度肝を抜いたが、ミステリの伝統芸に対しさらにツイストを利かせ伝統的手法を逆利用するような、言わばあざとい作家である。だから、この物語も一筋縄ではゆかない。

 ただこうした娯楽面に徹するあまり、本来の雫井節が唸るヒューマンな強みは、この手のジャンルとなると少し弱くなるところが残念である。

 いや、むしろヒューマンを捨て切った、徹頭徹尾渇いた荒野のような人間の心の非情さこそが、本書の個性と言えるかもしれない。世間の殺人事犯が年々凶悪化していると思われるが、欲望にまみれた悪の心は荒廃の極みを見せ、冷酷というよりもむしろ狂気の世界である。

 雫井脩介は、青春小説ではしっかりとした人間の温かみで読者を泣かせるくせに、クライム・ノベルにおいては、徹底して人間の心の暗い部分を冷徹な描写でもって抉り出す。いくつものどんでん返しの果てに、迎えるショッキングなラストは、何とも言い難い無常さの極北である。何のためにこの本を読んだのだろうと、虚しくさえ感じられてしまうのだった。

(2014.6.22)
最終更新:2014年06月22日 16:30