第三の銃弾





題名:第三の銃弾 上/下
原題:The Third Bullet (2013)
作者:スティーヴン・ハンター Stephen Hunter
訳者:公手成幸
発行:扶桑社ミステリ 2013.12.10 初版 2014.1.20 2刷
価格:各\876

 今になってJFK? ダラスの熱い一日の事件を今になって、さらに新たに新解釈で小説化できるものだろうか? そんな疑問で本書を首を捻りながら手に取る読者は多いだろう。そうした懐疑的な多くの視線を切り裂いて、スナイパー小説の第一人者である巨匠スティーブン・ハンターが、アメリカ最大の事件に対し真っ向ストレート勝負を試みた。

 その志もあっぱれだが、その切り口もこんなにも鮮やかだとは、誰に予想できたろうか。ここのところ、失礼ながら鳴かず飛ばずのボブ・リー・スワガー・シリーズで、スナイパー小説の王道から逸れたような作品を書いていたこの作家が、こんなにも原点に立ち戻って、しかもあの傑作『極大射程』の続編という形でメインストリートもど真ん中に戻ってきた快挙の一作を作り出してくれたのである。かつてのハンター・ファンが泣いて喜ぶ傑作、胸のすく快作に仕上がっている。これはことによるとハンターの代表作と呼べる新機軸となるかもしれない。

 ボブ・リー・スワガーも初老となったが、かつてのベトナムの特殊部隊兵士、銃撃のプロフェッショナルとしての勘は衰えることを知らない。今回は、まるでハンターの分身のような銃器アクション作家が、まるで『黄昏の狙撃手』そのままに車で轢き殺されるところから始まる。彼が調べていたのは、実はJFK事件の真相だった。彼の死を調査すべく依頼されたボブ・リーは、依頼以上に銃器のプロフェッショナルとしての観点から、ダラスのJFK暗殺事件の真相に多くの疑問を感じる。

 リー・ハーベイ・オズワルドの犯行説を最も疑問視させた魔法の銃弾の解析が、銃弾のブロの視点から見ると意外なものであり、オリバー・ストーンの映画とは全然別視点からハンターの作品は発射された弾丸の謎に迫る。第三の銃弾とは本作品のオリジナリティを高らかに掲げたロマンであり、タイトルである。

 その向こうに見え隠れする車椅子のスナイパー、極大射程の残党たち。そしてあのダラスではなく、現代の対決と復讐劇へと誘うプロットの見事さ。事実とフィクションによって糾われる縄のごとく、ボブ・リーの運命は、世界最大レベルの暗殺劇の中心軸へと下降してゆく。これは宿命の舞台劇でありながら、もはや歴史に対峙するプロフェッショナルたちの叙事詩そのものである。

 ここのところ隠れがちだった。そもそものハンター小説の文学性、高密度性が戻ってきた感がある。ハンターは『極大射程』の緊迫した空気を蘇らせてくれた。読後も興奮冷めやらぬ何やらほてりすら感じさせるハンター世界の新たなる地平が見えるかのようだ。しばしスワガーのサーガから足が遠のいていたかつてのファンたちに、改めて再集結を促したくなる傑作小説が、厳然とここに存在する。

(2014/06/18)
最終更新:2014年06月18日 18:37