天空への回廊



題名:天空への回廊
作者:笹本稜平
発行:光文社 2002.3.5 初版
価格:\2,000

 何年か前のぼくであれば、文句なしにこの作品を一位に選んでいただろうなと思う。

 何よりスケールが大きい。冷戦時代の宇宙兵器まで巻き込んだテロ絡みの国際謀略小説であり、舞台は世界最高峰という申し分なさ。エベレストの頂上近辺ばかりがほとんどのこの作品の舞台であり、それだけ山岳アクションとして特化した部分が評価されても不思議ではない。

 主人公は日本人クライマー。世界の諜報員とゲリラと軍隊に囲まれて孤立無援のダイハードを演じる我らがヒーローは軽く『ホワイトアウト』あたりを凌駕する。何年か前なら、少なくとも『ホワイトアウト』以前であれば、あるいは『神々の山嶺』以前であれば、あるいは『遥かなり神々の座』以前であれば、この作品は間違いなく、冒険小説協会大賞か何かを射止めていたことだろうと思う。

 では、一体なぜ今なら選ばないのだろう? 一つにはこの手のアクションを読むには少しぼく自身が歳を取り過ぎたから。一つには山岳アクションは面白いけれど、もはやスケールに惑わされるほど世界の冒険小説は甘くないということ。

 実際の話、スケールという意味ではさほど大きくないスティーヴン・ハンターやジェフリー・ディーヴァーが今の世界の冒険小説のベストセラーであり、古くからディック・フランシスもダシール・ハメットも最大スケールなどは脳裏に無かった作家が作品的長生きを遂げているのだ。

 スケールが逆効果になってしまったなという印象。この作家を好きになるには『時の渚』をお勧めします。そして劇画的超アクションをこなれた筆致で楽しむ、ただひたすら楽しむのなら、本書をどうぞ。

 前に『亡国のイージス』が取り上げられたとき、大方の感想に反対して、ぼくは批判をぶち上げたものだった。まったく同じです。だから大方の人には楽しめる凄い小説なのかもしれない。マジで『このミス』一位かも。

(2002.8.18)
最終更新:2006年12月17日 21:46