代官山コールドケース




題名:代官山コールドケース
作者:佐々木譲
発行:文藝春秋 2013.8.30 初版
価格:\1,850




 『地層捜査』に続く水戸部警部補のコールドケース・シリーズ第二弾。今度は代官山に舞台を移すが、前作と同様、この土地の狭い部分だけに集約した物語に展開する現在と過去の事件を、今のDNA技術が結んでしまうことが、捜査の発端となる。警視庁と神奈川県警が犬猿の仲であるらしいことは、これまでいくつもの警察小説が取り上げてきた状況背景で何となく周知のことのようにされているが、今回も、そのへんの村社会的な官僚警察の見栄やらプライドやらが水戸部という反骨の警察官を捜査に向かわせるところが、相変わらず佐々木譲のソウルフルなところなのかな。

 ただし前作でも言えたことだが、水戸部警部補の反骨精神はまだ十分に書き切れているわけではなく、少し個性に欠けるあたりが、まだ少し残念なところ。前回の加納という個性溢れる老刑事の役割を持たされるのが浅香という女刑事である。今度は現職の刑事であるばかりではなく、水戸部よりも先輩でありながらチームのチーフは水戸部が勤めるというやや奇妙なコンビである。ここに前作ではちょい役と言っても過言ではなかった科学捜査研究所所員の中島翔太が本作では副主人公と言えるほどの活躍を見せる。

 『地層捜査』で未解決事件の再捜査という題材と、限られた土地に眠る古い時代の気配を組み合わせて織り上げたシリーズであったが、ここに来て現代科学技術を駆使してのコールドケース再捜査に活躍させるべき科学捜査に焦点が当てられる。いわゆる海外TVドラマのCSIを彷彿とさせるラボの風景が捜査の合間にクロスしてゆくのである。

 現代的なテーマに、とても現代的な街、代官山という、ある種人格化しているのではないかとさえ思われるお洒落の代名詞のようなスタイリッシュな街が舞台として選ばれた。今回も被害者、加害者ともに地層と時の経過に埋もれたちっぽけな人間の綾なす模様が滲み出してゆくような物語展開ではあるのだが、何か前作の緊張に欠けるものがある。

 読後もしばらく気づかなかったのだが、前作はすべてが水戸部の視点で描かれていたのに対して、本作は視点が振られる。特に水戸部と中島に振られることが多く、そこで前作よりもずっとCSI度(?)が増し、群像小説のようになっているのだ。だからなのか、水戸部という刑事の影が薄くなり、事件そのものと刑事たちの関わりも多視点により距離感が出すぎてしまい、何か結果的に薄く感じられる、あるいはフィルター越しに見ているような妙に客観的すぎる読書となってしまったのだ。

 本シリーズに次作があるのなら、両方の作品をもう一度並べた上で、作家には安易な道を歩まず、このシリーズの持つ、あるいはまだ持たぬ精神を大事に、慎重な創作を意図して頂きたいものである。

(2014.1.23)
最終更新:2014年01月23日 22:38