フォックス・ストーン



題名:フォックス・ストーン
作者:笹本稜平
発行:文藝春秋 2003.05.15 初版
価格:\1,905

 年間一作というペースがいい。雑なところがまったく見られない、練りに練られた文章だけで構成された小説作りがもののみごとに結果として反映されている。実力を見せつけるがごとき文章力によって鎧われたプロットがこれまた凝りに凝っている。一ページあたりの密度がそこらの小説に見習って欲しいほどで、どこもかしこも濃厚である。

 主人公が日本人でありながらフランス外人部隊上がりの元傭兵、現セキュリティ・コンサルタントが、傭兵時代のパートナーの不審な死の謎を追って、アフリカ小国の虐殺の落とし物を拾って歩く物語。傭兵と聞いただけで、柘植久義あたりを思い出してぼくはうんざりする口なのだが、作品ごとに毛色を変えてくる笹本稜平の新作はさすがに一味も二味も違う。

 支えるのはこってりした味わいのハードボイルド文体で、それがややいやみにも感じられるのだが、導入部からのテンポの良さにはめられて、舞台をニューヨークに移してしまう。

 ぐいぐいと深まる謎、転がる死体、続出する証拠と証人たちといったサービス過剰ぶりと、主人公のジャン・クロード・バンダム的強さも鼻につく。極彩色に飾られた商品ディスプレイを見せられてかえって抵抗を覚えてしまうような感覚は、前作『天空の回廊』に似た部分がある。出し惜しみの謙虚さと言うものがこの作家にはないのか。

 謎が明らかになるにつれてそういう嫌みが薄らいでゆくのは、謎そのもの奥に膨らんでゆく巨大スケールの欲望と恐怖のせいだろう。アフリカ奥地の黙示録的世界に王国の幻が浮かんでゆく。『闇の奥へ』に挑戦した日本作家というのは相当に希有な存在だと思う。

 あくまで残酷な物語。惜しげもなく登場人物を使い捨ててゆくストーリー展開と、血腥さに身が引きそうになるくらいの非情さを掻き分けてゆくストーリー。山中の湖畔での死闘は、ポロックの『樹海戦線』を思わせるところがある。海外の名だたるアクションへの傾倒が相当に感じとられる、国産離れした作品。日本よりも海外での方が読者が集まりそうな作家として、前作以上に濃密で奥行きのある世界に注目したい一冊である。

(2003.7.15)