検察側の罪人





題名:検察側の罪人
作者:雫井脩介
発行:文藝春秋 2013.9.10 初版 2013.10.1 2刷
価格:\1,800

 雫井脩介は筆力もあり、その作品からは全力で執筆するという気迫も感じられる。

 『犯人に告ぐ』『犯罪小説家』など、ミステリ作家として注目されながら、『クローズド・ノート』という女性小説で凄腕を発揮、その後、『つばさものがたり』『銀色の絆』など、どちらかと言えばミステリよりも女性小説のような題材で味のある仕事をしてくれているこの作家は、ミステリ作家とだけでは言い切れないばかりか、ジャンルをシフトさせてかに見える。そしてそのシフトもあながち間違っていないという印象がうかがえるほどに、優良品質な作風で定着しているかに見える最近であった。

 久々のミステリと言えるのかどうか、本書はタイトル通り、検事という職業の人たちを通して描いた犯罪の側面。まさしく本書の風景は、いずれも側面と言える視界で見られたものであり、敢えて検事という公正なる職業ながら孤立した人間個人の、感情に左右された眼線を通して、この困難な事件がどう見えるのか、というところに着目点がある。そんな少し屈曲したレンズから見える景色、対して屈曲のない正義感という客観のレンズで見た景色との、決して重なり合うことのない違和感が、老若の検事の対立構図を作り出す。

 過去にどうしても裁けなかった容疑者が、現在の事件に関与した。今度の事件では何としてもこの容疑者を追い込みたい、過去の亡霊のために払わなねばならなかった幾多もの犠牲への贖罪の意識もある、そうして徐々に自分を追い詰めてゆく検察官の胸中と、それゆえに陥ってゆく闇の深さが描かれる本書は、危うく駄作の謗りを逃れられないほどに非現実的で有り得そうにない経緯を辿る。だからこそ納得感のゆく筆致というものが作家には問われるのだろうが、その高きハードルを見事にクリアしてゆくところに雫井節の見事な畝、作り出される陰影の深さが見えてくる。

 作品としてミステリという娯楽なのだろうかと疑問が残るのは、ストーリー展開に謎解き部分や意外性が。あまりないからなのだが、それ以上に蒙昧さに満ちて泥沼に陥ってゆく高邁なる知性の行方こそがドラマチックで痛みに満ちている。ラストシーンは、乾いた心を持て余す若き検察官の心の爆発が凄まじく、印象的である。どんでん返しなどは期待すべきでないゆえに、じっくり確かに描かれたストーリーテリングをこそお楽しみ頂きたい。

(2014.01.10)