有罪答弁




題名:有罪答弁
原題:Pleading Guilty (1993)
作者:Scott Turow
訳者:上田公子
発行:文藝春秋 1995.6.1 初版
価格:\2,400(本体\2,330)

 読み残しの一冊だったが、やはりこの作家巧い。シカゴの大法律事務所に勤務しながらこういう作品を書いちゃう、っていうのはもう才能以外のなにものもないでしょう。最も有名な『推定無罪』も読みたい読みたいと思いつつ時期を逸しているが、前作『立証責任』ではえもいわれぬ質の高い小説世界を堪能させてもらったので、非常に安心して取り組めるのがこの作家だとわかっている。

 前作がいわゆる純文学に属する分野かなと思われたのに較べて、こちらはむしろ謎の探求にストレートに迫る初老の窓際族弁護士の追跡行である。いわゆるハードボイルドの流れを組みつつ、法律事務所に所属する疲れた一弁護士を主人公に持ってきて、若干の欲望を胸に秘めたクライム・ノベルの側面も垣間見せつつ、口述報告の形を取ってぼくらを楽しませてくれる一級の娯楽作品である。

 事件そのものは、派手なテロなどに較べるべくもない小さな失踪事件だが、ここに身元のわからぬ死体が絡み、賭博が絡み、途方もない大金が絡み出すところで、主人公の独白テープがそれ自体ひとつの謎かけのように進行して行く。二転三転するストーリーは、前作とはがらりと変わった娯楽色の強いもので、とりあえずトゥローを体験してみたいという方には、最適の作品であるかもしれない。

 純文学風の作品を書いている途中で作者がこちらの小説を書き出し、そのまま一気に終わりまで行ってしまったというだけあって読んでも一気に楽しめる作品であると思う。しかし、なんと言ってもこの作家の良さは、優れた人間描写という一点に尽きると思います。

(1995.11.05)