おはなしして子ちゃん




題名:おはなしして子ちゃん
作者:藤野可織
発行:講談社 2013.9.27 初版
価格:\1,365



 ご存知、芥川賞を獲りたての作家・藤野可織がもたらす芥川賞作家らしからぬ大衆的なホラー短編集である。

 日常生活の中から拾ってきた、ちょっと興味深いことがらを、徹底した好奇心で突き詰めてみるとこんな身近な短いお話が沢山できあがるのかな。そんな印象の物語でいっぱいの、少し怖いような、でも見ないと気がすまないようなおもちゃ箱。10本の短編小説である。

 押入れの暗がりに長くしまわれている、とても気になるけれど、見ようか見まいか、とっても迷いながら、それでもいつも気にかけている宝箱。そんな危険で緊張感のある一冊。怖いもの見たさで読んでしまうそれぞれの奇妙なお話。

 表題作の『おはなしして子ちゃん』理科室の実験室にあるホルマリン浸けになった気持ちの悪いものに対する子供の感性などは、まだわかりやすい方か。

 猿の上半身と鮭の下半身をそれぞれ干してくっつけて「人魚のミイラ」を作っていた日本の昔の仕事などもこんな風に語られると少し怖い『アイデンティティ』。

 心霊写真が取れてしまう人の日常を喜劇的に描いた『今日の心霊』。毎日ひとつだけ嘘をつかないと死んでしまうという病気の『エイプリル・フール』。他、難解さを楽しむべきなのか、『ハイパーリアリズム点描画派の挑戦』などなど、他にない個性を売りにした一冊である。

 日常生活に疲れた人に、少し脳みそだけでも脱線してみませんかとでも言いながら、お勧めしたい本である。

 実は講談社のモニターでもらった仮装丁本(プルーフ本とか呼ぶらしい)で、ぼくは一ヶ月前に読んでしまっていたのだけど。

(2013.09.26)