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裁きの曠野




題名:裁きの曠野
原題:In Plain Sight (2006)
作者:C・J・ボックス C.J.Box
訳者:野口百合子
発行:講談社文庫 2012.5.15 初版
価格:\743

 さて本書の題材は、シリーズ作品にはよくあるパターンかもしれないが、いわゆる過去からの復讐鬼である。第一作『沈黙の森』で引き取ったエイプリルは、第3作『凍れる森』で悲劇を迎えるがその実際の父と称するジョン・ウェイン・キーリーが、われらが猟区管理官ジョー・ピケットへの復讐の旅に出立する。

 一方で女牧場主オパール・スカーレットが失踪する。彼女と三人の息子たちは事実上町の支配者であり、彼女の失踪はジョーの世界にとっては社会的影響も強い大事件であるようだ。

 復讐鬼についても、町を支配する牧場主一族についても、シリーズにとって唐突すぎるきらいはあるけれども、お馴染みの役所組織内部の軋轢や、僻みにしか見えない上司のパワハラ、さらに個性的で破天荒で考えの分かりにくい州知事ルーロンとの出会いなど、ジョーを取り巻くキナ臭い日常風景は健在で、彼と妻メアリー・ベス、成長著しい長女シェリダンと幼く愛らしい次女ルーシーの家族、姿をくらましたままの謎の親友ネイト・ロマノウスキなど、シリーズの脇を固める環境や人物たちの配置は、もはや馴染み深いものである。

 そして何よりもこの小説世界を取り巻くワイオミングの山岳地帯は、相変わらず主人公を活かす最大のロケーションであり、それらは広大な区域に大量の動物たちと大自然を息づかせる美しい小説背景として、このシリーズのオリジナリティを最大限に創りあげ、途轍もなく気高い。

 オパールが疾走することで激化する三兄弟の諍いの中に、復讐者キーリーが紛れ込むことで、状況は複雑性を増す。キーリーのピケット家への威嚇デモンストレーションは容赦なく、暴力性を増すばかりで、家族のバランスを危うくさせるし、スカーレット家との駆け引きにも似た捜査活動が、キーリーの憎悪という一点に辿り着くまでの大構造は読む側にしか見えないものであり、とてもスリリングだ。

 一族の古臭い形での町の支配と息子たちの個性や暴力性といったところが、まるでクリント・イーストウッド演じるジョーが潜り込んだ『荒野の用心棒』の世界のようであり、訳者が巻末解説でゴシックと言うほど時代めいた情念の対立構造である。こんな世界構造が既に張り詰めた危険の気配を満たしているところに、キーリーの復讐行動が実行されるあたりからは、力と力のぶつかり合いとなるウエスタンそのもので、あたかも決闘のようなクライマックスである。

 嵐の夜、激流を下るジョーとネイトのシーン。微笑むオパールの目撃談の真相がわかる瞬間。復讐者キーリーが破壊の限りを尽くすスカーレット家の顛末。……などなど、手に汗握るアクション、またアクションで綴られたシリーズ世界は他に類のない冒険小説の原型のような物語でさえある。

 スカーレット家と復讐者の事件は、一方で、ジョー・ピケットに運命の転向を迫り、次作に繋がるであろう不安定な状況設定にて幕を閉じる。気になってやまないこの終章。当初はシリーズ化を考えていなかったという作者の、思わせぶりな笑が見えるようである。

(2013.07.28)