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特捜部Q -カルテ番号64-



題名:特捜部Q -カルテ番号64-
原題:Journal 64 (2010)
著者:ユッシ・エーズラ・オールスン Jussi Adler-Olsen
訳者:吉田薫訳
発行:ハヤカワ・ミステリ 2013.05.15 初版
価格:\2,000


 シリーズ第4作。情報の少ない海外小説を読む場合、巻末解説はぼくにとって非常に重要なのだが、やはり一つ重要なことが記されていた。本<特捜部Q>のシリーズは、10作を予定しているという。一作一作、極めてダークで印象的な悪党どもとの闘いを余儀なくされている地下室の特捜部だが、気になるサイド・ストーリーの解決の方向性がこれで見えたか、といった嬉しい予感に震撼しそうなニュースだ。

 カール・マークはおそらくエド・マクベインの87分署シリーズのキャレラのようにあるときから年をとらなくなる恒久的なヒーロー像にはなるまい。未解決事件捜査に専念することを旨とする本シリーズは、毎度過去の亡霊たちを現代に引きずり出して対決するばかりではなく、生々しくカールという主人公の風変わりな日常生活と心情を重視してもいる作品群であり、同時に彼を追い込み、自らの中の暗黒面としてマークが直視することすら避け続けているアマー島の失態とその謎めいた経緯についての長い物語でもあるのだから。

 アマー島で失われた同僚の記臆と同様に、日々、全身麻痺という姿でカールの家に同居しているハーディはアマー島の失態をカールに毎日いやが上でも突きつけ続けているのである。こうしたシリーズの全体を覆う黒雲のような通低音をベースにいつも語られるのがこの一冊一冊の重厚な物語であるところに、本書の凄みが秘められているわけである。十作という限られた作品の中でそれらが解決を見ないわけにはもはやゆかないところまで、それらの原因と結果論については度々語られているし、そもそも特捜部Qの存在理由ですらある。

 さらに謎多きレギュラーメンバー・シリア人アサドの正体についても、どこかの作品中で明らかにされるに違いない。そうでなければここまで思わせぶりな数々の奇行の描写は有り得ない。これに回答がなければもはや罪である。

 さてシリーズ全体の俯瞰はともかく、本書で今回もまた取り上げられたダークな題材であるが、これまでが娯楽色が強かったのに比して、今回は国家の恥ずべき部分として、差別された女性の強制堕胎、強制不妊治療などを行うという収容所の実態である。なんとこうした信じがたい国家暴力が作者幼年の頃まで存在し続けたというこの国の歴史的事実を作者は詳らかにすべく、小説という表現を活用したのである。

 巻末に作者の一文が添えられており、ショッキングな事実が明らかにされている。民族衛生法・優生法といった恐るべき法律が1920年代から30年代には欧米30ヶ国以上で公布されていた。デンマークでは1929-1967年までに1万1千人が不妊手術を受けておりそのうち半数が強制的に行われたと推測されている、とある。「そして、ノルウェー、スウェーデン、ドイツ等とは対照的に、デンマーク王国は今日に至るまで、こうした人権侵害にあった人々に対する賠償金の支払いも、謝罪も行っていない」

 この題材を元に、人生を棒に振った女性が復讐の鬼と化す。同時期に消息を絶った複数名の行方をたどるうち、特捜部Qは、驚くべき真実に行き当たるのだが、ミステリの謎解きというよりも、凄絶な独りの女性が理不尽な人生を送ってゆく様の描写を読んでゆくのが辛い。娯楽小説それも警察小説の形を取りながら、サイドストーリーのカラフルな衣を纏わせながらも、物語の中心に作家の乾坤一擲の真理追求の姿勢が見え隠れしてやまないところが、魅力的な骨太の女性戦記としての本書を価値づけ、忘れがたい強烈なインパクトを残す。

(2013.07.25)